近年、技術の発達により、急速にAR(拡張現実)が私たちの身近なものになっている。そうした中で、現実世界では体験できない楽しさを世界中に届けているのが、ARスポーツ『HADO』(ハドー)だ。AR空間で手から“かめはめ波”のようなエネルギーを放出し、仲間と協力しながら対戦するという全く新しいARスポーツを生み出したのが、株式会社meleapのCEO福田浩士氏である。『HADO』が生まれた経緯やこれからの事業ビジョン、さらに福田氏の学生時代から起業に至るまでのキャリアや仕事観について、話を聞いた。
福田 浩士(ふくだ・ひろし)
株式会社meleap CEO/Founder
1986年生まれ。明治大学工学部、東京大学大学院にて建築を学ぶ。卒業後は、株式会社リクルートに入社し、営業職に従事。2014年に独立し、株式会社meleapを創業。ARスポーツ『HADO』を開発する。空間認識技術とヘッドマウントディスプレイやモーションセンサーなどのウェアラブル技術を駆使した『HADO』は、体を動かして仲間と協力しながら対戦する新しいゲームの形としてグローバルで大きな注目を集めている。
世界を熱狂させるARスポーツ
エナジーボールを繰り出し、フィールドを自由に駆け回って“バトル”を繰り広げる。そんな映画やマンガのような世界を体験できるのが、ARスポーツの『HADO』だ。「現在は世界39カ国で展開し、およそ600万人がプレイしています。競技者はもちろん、観戦するファンもいるスポーツビジネスとして成長を続けています」。そう話すのは、株式会社meleap CEOの福田浩士氏だ。2014年に起業し、ヘッドマウントディスプレイやモーションセンサーなどによるウェアラブル技術によって、グローバルに展開するARスポーツへ『HADO』を押し上げた。
『HADO』は、二つの事業を軸に展開している。ユーザーが『HADO』を楽しめるように、ライセンスを店舗などに販売するロケーションベースエンターテイメント事業。もう一つが、俳優やアイドルが『HADO』をプレイし、それをファンが応援するというタレントリーグの事業だ。タレントリーグは視聴者参加型を取り入れ、観客が応援すればするほど、自分の〝推し”が試合で優位に戦うことができる。プレイヤーだけでなく、観客も試合の勝敗を決めるファクターとすることで、一般的なスポーツとは異なる盛り上がりを生み出している。
マンガやアニメといったIPとのコラボを推進
福田氏が事業を立ち上げた2014年は、スマートグラスやVRヘッドセットが発売されるなど、XRの盛り上がりを感じていた時期だったという。現在ではHADO WORLD CUPを開催するなど、海外における認知度も一層高まってきている体験型ARコンテンツ『HADO』。グローバルに事業を展開し、中国では現地法人を設立するまでに成長を遂げている。
『HADO』を立ち上げて大きな手ごたえを感じたのは、グローバルに受け入れられた瞬間だったと福田氏は話す。「『HADO』のデモ動画をSNSで発信すると、世界中の人から興味があると問い合わせがきたんですね。そのときに、こんなに可能性があるコンテンツなのかと実感しました」。それが2016年頃の出来事で、そこから『HADO』は本格的に世界進出を果たしていく。
これからの『HADO』については、二つの軸で伸ばしていくという。「まずは『HADO』をどんどん進化させて、リピーターを増やしていくこと。そして、IPコラボも視野に入れてサービスを展開していきます。マンガやアニメ作品などと積極的にコラボしながら、新しい軸でコンテンツを作り上げていこうと考えています。そして、世界的なスポーツイベントと同等、それ以上の熱狂を生み出していきます」
「試合に向けてプレイヤーが入念にトレーニングをすることも珍しくなく、それが私にとっては非常に印象的です」と福田氏が語るように、まさに一般的なスポーツのように『HADO』をプレイする人が現れており、それはコンテンツが成長した証拠といえるだろう。
建築を学びながら、ビジネスコンテストにも挑戦
「小さい頃はサッカーやテニス、スキー、空手、陸上をやっていましたが、スポーツ観戦は起業してからするようになりました。観戦して改めて感じたのは、人々を熱狂させるポテンシャルがスポーツにはあるということです」
理系領域への関心は小さい頃から持っていたそうで、「物理的な質問もよく周りの人に投げかけるような子ども」だったといい、中学生になると自作の実験器具を使って、運動エネルギーがどう変化するかなどを調べていたという。
「親は工学系の出身で建築の仕事をしていて、船はなぜ浮くのか、飛行機はなぜ飛ぶのかといった話は家の中でもしていました。そういったことが、自分のベースにあるのかもしれません。自分自身も建築家を目指し、大学は建築系の学部に進学しました」
建築を学ぶ中で、どのようにして現在のキャリアに至ったのかを福田氏に質問してみると率直な答えが返ってきた。「私が思い描く建築の仕事と、実際の仕事に大きな隔たりがあったからです。例えば、マンションもショッピングモールもまずは立地が重要とされています。あとはいかに坪効率を高めるか、どんなテナントを入れるか、などに目が向けられています」。こうしたことが理由で、意匠設計の力を発揮できるチャンスが少ないと感じたという。
そうした気づきの中で、ビジネスを学ぶ方向へと舵を切ることに。そして、東大の大学院では建築を学びながらビジネスコンテストに参加し、スモールビジネスにも挑戦。就職時はビジネスの力をさらにつけるため、営業としてリクルートに入社した。「何かを売るには、人を動かさないといけませんよね。その力はビジネスでも絶対に必要だと思っていたので」。新卒で営業職に就いた理由を福田氏はそのように語った。
本当にやりたいことを考え抜き起業
リクルートで1年働き、起業した福田氏。「営業は楽しかったのですが、元々、リクルートには長くても2年とは決めていました」と話す。「大学院時代からいつかは起業すると決めていたものの、起業してどんなことをするかは未定だったので、会社を辞めるときに本当にしたいことは何かと考え抜きました。“かめはめ波”を出したり、空を飛ぶような体験ができたりしたらいいなと思っていたので、身体拡張に関わる領域でサービスを展開しようと決意しました」。その他にも様々なアイデアを考えたそうで、スマートウォッチを使って楽器を弾く、ARを使ったカードゲームや好きなキャラクターや動物と一緒に住むといったコンテンツも考えていたという。
その中で『HADO』の事業化を決めた理由は、「世界中の人に受け入れられる可能性を感じるアイデアだった」という部分が大きかったという。
『HADO』のルール説明動画などを視聴してみると、その世界観に引き込まれる。ビジュアルもインパクトがあり、コンテンツの見せ方にもこだわりを感じた。そうしたこだわりは、『HADO』の立ち上げ当初から徹底していたという。「建築学科で表現を学んでいたので、人に伝わらないものは価値がゼロだと思っています。起業時からコンテンツの魅力を伝える動画は大切にしていて、最初の頃は自分で動画を制作して『HADO』の世界観を社員に伝えていました」
他分野に恐れず、ダイブする
福田氏に理系学生のキャリアについてアドバイスを求めると、こんな答えが返ってきた。「研究職として専門分野に特化するのか、広く活躍の場を求めるのかで考え方は異なります。ただ、私の学生時代のように他分野に興味があるのであれば、様々な世界を見た方がいいですね」
また、福田氏のようにビジネスの知識を深めていくことも一つの方法だろう。他分野を学ぶことで、今まで学んできた理系の専門分野と他分野の点と点を結びつけることができる。「大学時代に、建築から離れてビジネスの勉強をしたり、様々な業界の知識を得ていくことで、自分が目指したいビジョンが見えてくるような感触がありました。自分のやりたい道を歩むために、他分野からの学びで得ることがあるはずです」
本を読んで自分で実行できる人はそのまま進めばいいが、ほとんどの人は一人で動くことが難しいはず。そういった場合は、学ぶ環境を見つけ、とにかくダイブしていくことが重要だという。「大学院に進んだときに、ビジネスを学べる環境がたくさんあることを知ったのです。たとえば、他学部の授業を受けてみたり、東大には『i.school』というイノベーションを学べる場があるのでそこに入ったりもしました」
最後に理系学生に向けて次のようなメッセージを送ってくれた。「理系に限らずですが、何事においてもとにかく楽しむこと。日本人は行儀が良すぎる部分があるのかなと。人の目を気にせず、嫌われたって自分が楽しめることをやってほしいですね。仕事についてもいかに楽しめるかを考えて取り組んだ方が、自分のパフォーマンスも上がっていくはずです」
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