データサイエンティスト(三井住友海上火災保険株式会社)

社会環境の変化や気候変動などに伴い、世の中は以前とは明らかに異なる課題に直面している。三井住友海上火災保険株式会社では、100年以上の歴史の中で蓄積したビッグデータ分析を活用し、社会課題の解決に資するサービスを推進している。その最前線で活躍するのがデータサイエンティストの社員だ。同社ビジネスイノベーション部 セーフティソリューションズユニットの上田氏と伊藤氏に、三井住友海上におけるデータサイエンティストのミッションや、損害保険会社ならではのやりがいについて話を伺った。


自然災害や事故のリスクを、データ分析により低減する

自然災害の激甚化や、高度経済成長期に建設された工場設備の老朽化による事故の増加が問題となっています。これらは安心・安全な社会の実現という重大な使命を担う損害保険会社が、率先して対応すべき社会課題です。そこで当社は、リスクに関する知見や業界知識・最新技術のノウハウをもとにビッグデータ分析を活用し、企業の課題解決を図るサービス「RisTech」(「Risk」と「Technology」を掛け合わせた造語)を展開。様々な業界のお客さまに対して、データサイエンティストがデータ分析からソリューション提供を実施しています。

そのなかで、我々ビジネスイノベーション部セーフティソリューションズユニットでは、製造業のお客さまに向けて、大きく2つのソリューションを提供しています。ひとつは、データ分析コンサルティングです。当社が保有する契約や事故のデータに加え、お客さまから提供いただくデータを含む様々な統計データを掛け合わせることで、工場設備の老朽化などに伴う火災・爆発事故の防止やトラブルの原因究明を行います。さらに、原因を特定するだけではなく、ガス検知器などのソリューションベンダーと協業し、事故防止策の実行までを支援しています。

防災・減災のためにデータを活用しようという意識は世の中に浸透しつつあるものの、様々な課題を抱える企業にとって、事故防止や安全対策は、投資の優先度があまり高くないのが実態です。しかし今後、自然災害のリスクや設備の老朽化による事故リスクは、増加する一方です。だからこそ、損害保険会社が旗振り役となり、安心・安全に対する価値観を変革し、その意識を引き上げていくことが重要となります。当社のデータサイエンティストは、その活動を牽引する重要なミッションを担っているといえます。

三井住友海上火災保険株式会社

設備老朽化に伴う事故リスクを低減するプロジェクト事例

ある製造業のお客さまの工場で、火災爆発事故が発生しました。事故が発生すると、お客さまの社内で事故調査委員会を立ち上げ、原因を特定します。そして損害保険会社としては、保険金をお支払いし、再発防止策を確認します。しかし、それだけでは再発防止策の有効性までは確認できません。そこで私たちはデータ分析をもとに、再発防止策と検査体制を提案しました。

火災・爆発事故の原因は配管内部の腐食によるガス漏れでした。配管内の腐食は、多くの製造業に共通する課題の一つですが、様々な要素が影響する複雑な現象です。そのため、配管内の温度や圧力などのデータを用いて、腐食に至るプロセスの解明と、どのような条件で腐食が進行しやすいのか解析しました。お客さまには、解析結果と共に、腐食発生リスクの高い個所に対する先進的なセンサーと、より高度な検査方法の導入を提案しました。このデータ解析に基づく提案について、お客さまに有効性を認めていただき、当社としてもデータビジネスの可能性を切り拓く一つの大きな事例となりました。


幅広い業界と接点がある損害保険会社ならではのやりがい

当社は損害保険会社としてあらゆる業界のお客さまと取引をしています。データサイエンティストも自動車、位置情報、小売、マーケティング、金融情報など、多様な専門性を持つ人材が集まっており、彼らとのディスカッションを通じて世の中を広く深く知ることができます。先にご紹介した製造業向けプロジェクトでも、私が前職のメーカーでデータ分析を手掛けた経験と、損害保険の知見が豊富な伊藤の経験を活かせており、多様なプロジェクトがあるだけバックボーンを活かせるフィールドがあると実感しています。さらに、当社にとってデータビジネスはまだ新しい事業であり、前例がないことの連続です。大変なことも多いですが、壁を乗り越えるごとに自分の成長や達成感を得られます。データ分析という専門性を活かしながら、新たなビジネスの柱を築いていく、その両輪での面白さを感じられる点が、他にないやりがいといえるでしょう。データ分析という専門性を活かしながら、新たなビジネスの柱を築いていく、その両輪での面白さを感じられる点が、他にないやりがいといえるでしょう。

統計学や機械学習の知識、AWS、ITストラテジスト、Python、R言語、Tableau、E資格、G検定などスキルを身に付けるに越したことはありません。ただ、技術は後からでも身に付けられます。損害保険会社はお客さまの裾野が広いため、常に新しい業界・分野のテーマを担当する可能性がありますし、データから物理現象と関連のある変化点を見つけ、計測・制御・モデリングを通して課題解決を進めるデータサイエンティストの力は、製造業でますます重要度が高まっていくはずです。だからこそ、様々なことに興味を持ち探求する知的好奇心が不可欠です。ぜひ、異分野、異世代など自分と違う人たちとの交流にも、学生のうちから取り組んでください。


PROFILE

上田 健夫

上田 健夫(うえだ・たけお)
三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスイノベーション部 セーフティソリューションズユニット
筑波大学大学院 理工学研究科 構造工学専攻 修了

外資系自動車部品メーカーならびに国内大手電機メーカーにおいて、自動車やプラントに関する様々なデータ分析業務を経験。

伊藤 慎太郎

伊藤 慎太郎(いとう・しんたろう)
三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスイノベーション部 セーフティソリューションズユニット
首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 システムデザイン専攻 航空宇宙システム工学専修(当時) 修了

新卒で三井住友海上火災保険に入社し、大手日系グローバルメーカーや、世界的建機メーカーの海上保険など、幅広い業界のリスクマネジメント経験し、2021年10月より現職。