トップインタビュー(株式会社ALE 代表取締役社長 岡島礼奈)


神秘的な一瞬の輝きで、昔から多くの人々の心を魅了してきた流れ星。その流れ星を人間の手で自在に生み出すことができたら——そんな夢のようなプロジェクトに挑み、2018年のサービス実現を目指しているのが株式会社ALEの岡島礼奈社長だ。天文学の博士号を取得し、「天文学とビジネスをつなぎたい」と語る岡島氏に、仕事観やキャリアについて話を聞いた。


PROFILE

岡島礼奈(おかじま・れな)
株式会社ALE 代表取締役社長/理学博士(天文学)

 

1979年鳥取県生まれ。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。2008年ゴールドマン・サックス証券入社。証券戦略投資部にて、債券投資事業、PE業務等に従事。2009年エルエス・パートナーズ株式会社設立。2011年9月に株式会社ALE設立。2児の母。

 

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流れ星の閲覧可能エリア

花火の観覧可能なエリアは直径約10キロ圏だが、流れ星は約200キロ圏。これは関東全域をカバーできる広さで約3000万人に見てもらうことが可能。

夜空のキャンバスに描く、流れ星のアート


「流れ星を好きな時に好きな場所で、好きな人と見られたらいいな。このプロジェクトは、そんな淡い夢からスタートしました」(岡島氏)。夜空にきらめく流れ星を人間の手で生み出せないか―岡島氏が学生時代に流れ星を目にした際のひらめきから始まったプロジェクトは、実現までもう一息というところまで来ている。

そもそも、流れ星の“もと”となるのは宇宙空間に存在している数ミリ~数センチ程度の塵。その塵が大気圏に突入して高速で上層大気の分子と衝突し、プラズマ化、発光したものが『流れ星』だ。岡島氏は、人工衛星から『流れ星のもと(流星源)』を放出することで、人為的に流れ星を生み出そうとしている。すでに流星源を構成する粒子の候補物質を絞り込み、恒星として最も明るい『シリウス』に近いマイナス0・8等星相当の発光を実証済み。その流星源を宇宙空間で正確な速度と方向で放出する装置も完成に近づいており、特定の時間帯であれば秒単位で発生時間の調整が可能とその精度は極めて高い。

「最初はプロポーズなどに使ってもらえたらと考えていたのですが、マーケティングを進めるとエンターテイメント領域を中心に想像以上の反響があり、野外ライブ、製品プロモーション、アート、イベントなどで流れ星を使えないかという具体的な相談が寄せられています。

花火の観覧可能なエリアは直径約10キロ圏ですが、流れ星は約200キロ圏。これは関東全域をカバーできる広さで約3000万人に見てもらうことが可能です。街全体でカウントダウンをして流れ星を待つ。そんな風に多くの人に楽しんでもらえれば嬉しいですね」

気になるのは人工流れ星の利用料金だが、人工衛星に流星源を1000粒積めれば、流れ星ひとつを100万円程度で提供可能と岡島氏は試算する。今後のスケジュールについては2017年後半を目処に衛星を打ち上げ、2018年のサービス提供開始を目指している。

近年ではネットに様々な映像が溢れ、世界中の風景や自然現象を家に居ながら見ることができる。しかし、そんな今だからこそ、リアルな体験の価値が見直されていると岡島氏は言う。「音楽でもライブに価値を感じるから多くのファンがスタジアムに集います。私も学生時代にしし座流星群を肉眼で観測し、実際に確認できたのは2つくらいだったのですが、それでも大きく心を動かされました。最近は流れ星を見たことがないという方もいるかもしれませんが、流星群を肉眼で見ることができたらきっと心が躍るはず。そんな感情をもっと多くの方に感じてほしいですね」


相対性理論のマンガをきっかけに科学への興味が高まる


岡島氏が科学への興味をかき立てられたのは、小学生の頃に読んだ手塚治虫氏の「相対性理論」を解説したマンガがきっかけだったという。「さすがに数式は理解できませんでしたが、時間が延びたり、空間が歪んだりといった事象を図解でイメージしやすく描かれていたので、分かったつもりになりました(笑)。中学生の頃にはホーキングの量子宇宙論が世間で話題になっていたこともあり、宇宙の神秘を解き明かしたいと考えるようになりました。工学系の学問は時代によって書き換えられていくことが多いのに対して、物理法則は時代を経ても不変で、真理に向けて近づいていくという点も面白いと感じ、宇宙物理学への関心が高まっていきました」

そして大学では天文学を専攻。2001年のしし座流星群、2002年のペルセウス流星群と大規模な流星群を肉眼で見る機会に恵まれた。

「そもそも物理学への関心から天文学科に進んだので、当時は星座の名称や流星の仕組みといった知識がほとんどなかったんです。ですが、肉眼で目にした流れ星の美しさは衝撃的で、『こんな綺麗な流れ星がなぜできるのだろう』と心を奪われました。その際に友人から流れ星の発生する仕組みを詳しく聞いて、『流れ星を人工的に再現できるのではないか』とひらめいたんです」

とはいえ、そのような取り組みは前例がなく、すぐに実現できるとは岡島氏も考えていなかった。人工流れ星についての話はその場で終わったが、「天文学をビジネスとしてうまく展開することはできないか」という想いを岡島氏は抱きつづけていた。

「日本の天文学は国からの支援に頼るところが大きく、研究予算を確保するために教授が奔走しているのを目の当たりにしていました。私の指導教授は、寄付金を約3億円集めてハワイに天文台を建設したり、予算70億円のチリにおける望遠鏡建設プロジェクトを推進するなど、本当にすごい方だったのですが、『そんな優秀な研究者が資金集めにも力を割かなければならず、研究に専念できないのはもったいない』という想いもありました。

私は研究者としてはあまり優秀ではなかったのですが、大学時代から家庭教師派遣やプログラミングの受託開発ビジネスを立ち上げて収益化することができたので、ビジネスの適性はあったようです。それなら、天文学とビジネスをつなぎ、科学の発展に貢献できないかということを考えるようになりました」

天文学の博士号を取得したのち、岡島氏はビジネスの仕組みを学ぼうと考え、外資系金融機関のゴールドマン・サックスに入社する。「将来起業するなら、資金の集め方やビジネスの回し方を学びたいと考え、入社を決めました。できれば、起業のための資本金も作りたいと考えていたのですが、すぐにリーマンショックが起きて所属部門が大幅縮小。一年で退職することになり、資本金は貯められませんでした(笑)」

それでも岡島氏は同社を退職後に、日本企業の新興国進出支援コンサルティングを手掛ける会社を起業。その傍ら、時間を作って人工流れ星の研究を少しずつ進めていたが、起業から2年後に結婚していた夫との間に子どもを授かる。「これから行動が制限されるのであれば、やりたいことに集中したい」と考え、人工流れ星のプロジェクトに専念することを決意し、2011年9月に株式会社ALEを設立した。

「このプロジェクトは初期投資が非常に大きく、研究開発やロケットの手配に多額の資金を要します。しかも、衛星を打ち上げた後は宇宙に在庫(流星源)を抱えるというビジネスの定石からは離れた突拍子もないもの。それでも、当社に参画してくれるメンバーや、力を貸してくれる大学や研究所、投資家が増えてきており、プロジェクトの実現は目前まで来ています。私自身も『流れ星を見たい』というモチベーションに背中を押されここまできました。子供の頃に抱いた淡い夢が現実のものになるだけでなく、公的資金や寄付金だけに頼らない新しい形の基礎科学の発展に貢献することができるという意味でも、私はこのプロジェクトにとてもワクワクしてるんです」

人工流れ星

空のキャンバスを彩る『人工流れ星』。地球上の誰もが自由に流れ星を堪能できる、そんな夢の実現が間近に迫っている。株式会社ALEは、2018年のサービス提供開始を目指す。



人生はアグレッシブに攻めたほうが、いざというときにリカバリーしやすい


最後に、起業家であり二児の母でもある岡島氏に仕事と家庭を両立させるための秘訣、そしてこれから社会に出る理系学生に向けたメッセージを聞いた。

「仕事とプライベート、すべてを完璧にこなすことはできないと割り切り、手を抜けるところは抜いて、時にはアウトソースできることは第三者にお願いすることも大事だと思います。そして、キャリアを考えている女子学生に言いたいのは、“夫選び”が非常に重要ということ(笑)。仕事に理解があり、家庭のことを分担してくれるパートナーを見つけることが何より大切だと、周囲を見ていても思います。

最近の学生と接していて『もったいないな』と感じるのは、優秀なのですが受け身な姿勢の方が少なくないということ。受け身で流される人生だと、いざというときに挽回するのは困難です。失敗してもいいからアグレッシブに攻めたほうが、結果的にリカバリーが利きやすいと私は感じています。“起業”というと、リスクが高いという印象を抱く方もいるかもしれませんが、このご時世では会社に入っても確実な安定は得られませんし、今後も不確実性はさらに増していくでしょう。それなら、やりたいことをやろうと私は思ったんです。

Facebook社のCOOシェリル・サンドバーグは『女性にとって、キャリアはジャングルジムである』と言いましたが、これはもはや女性に限ったことではありません。人生の道のりは一本道ではなく、常に考えながらベストと思われる道を上がったり下がったりしながら登っていくことが求められています。私自身、これまでのキャリアは決して順風満帆ではなく、ジタバタもがきながら現在に至るのですが、いま振り返ってみると人工流れ星プロジェクトのためにジタバタしていたのだなと感じています。これまでのキャリアで出会った人々が今のプロジェクトを応援してくれるから、いまのALEがあります。それに、自分の適性や才能、向き不向きはやってみないとわかりません。私は結果的に研究者にはなれませんでしたが、実際に挑んで納得することも価値がありますし、その経験は無駄にはならないでしょう。ですから、皆さんも興味を持ったことがあれば、ぜひ飛び込んでみてください」


流星源の発光実験

流星源の発光実験 JAXA宇宙科学研究所のアーク加熱風洞で、大気圏突入時と同様の条件を再現した流星源の発光実験の様子。実際の流れ星とそん色のない明るさを出せるだけでなく、炎色反応を応用して色を変化させることも可能。