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トップインタビュー(アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長 CEO 永井 歩)理系ナビ2026秋号

【キャリア情報誌 理系ナビ 2026秋号 掲載記事】

先端技術を用いた社会実装への期待がかつてないほど高まるなか、世界中の特許、論文、グラント(研究資金)、規制、市場、環境といったデータを収集・分析し、企業のイノベーション創出を支援している企業がある。アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長の永井歩氏は、大学院で原子力工学を専攻しながら在学中に起業した異色の経歴を持つ。閉ざされた「知」を解放し、社会実装へ導く同社の思想はいかにして生まれたのか。「自分の専攻をどう活かすか」と悩む理系学生へのメッセージとともに、永井氏のキャリアの軌跡を紹介する。

撮影: WeWork神田スクエア


PROFILE

永井 歩(ながい・あゆむ)
アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長 CEO

東京大学大学院工学系研究科修了。大学で機械工学・人工知能を学び、大学院で原子力工学や数値流体力学を専攻。大学在学中にソフトウェア会社に入社し、のちに取締役に就任。2005年9月、大学院在学中に株式会社パテントビューロ(現:アスタミューゼ)を設立。

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AI時代にこそ輝く、サイエンスやテクノロジーの価値


アスタミューゼは、世界中の特許、論文、研究開発テーマなどの膨大なデータを収集・構造化し、企業のイノベーションや新規事業開発を支援している。同社の強みは、193カ国・10億件超のデータと、多様な分野のテクノロジーアナリストの分析力を掛け合わせている点だ。

「私たちのミッションは『人類の実現力を高める』ことです。知を生み出した人が、その知を社会で活かす機会を得られる状態をつくりたい。そのために、企業や社会が未来をつくるための意思決定を支援しています」

永井氏は現在の社会全体のビジネス環境が大きな変革期にあると強調する。かつてはソフトウェアによる効率化がイノベーション投資の中心だったが、生成AIの登場により技術のコモディティ化が急速に進んだ。

その結果、永井氏が「生成AIの普及によって、サイエンスやディープテックの価値が相対的に上がっている」と語る通り、いわゆるディープテックと呼ばれる領域に世界中の投資家や企業が注目し始めている。エネルギーや量子コンピューティングなど、社会課題に直結する領域ほど新たな技術の実装が求められており、大手企業を中心に400社超の新規事業・R&D戦略を支援してきた実績があるという。

「イノベーションは異なる分野の掛け合わせから生まれます。当社には多様なジャンルの専門家が揃っており、彼らの知見とデータを掛け合わせることで、クライアント自身も思いつかなかった解決策を提示できるのです」


ソフトウェアと原子力。それぞれの経験から見えた世界


永井氏のキャリアはユニークだ。幼少期から理系科目が得意で、中学生の頃からロボットに興味を持っていた。学生時代はスポーツにも幅広く取り組み、高校時代は学校から足が遠のく時期もあったが、理系科目と国語だけは常に得意だったという。

ロボットへの関心から大学では機械工学や人工知能を学んだが、当時の技術ではその普及に限界を感じたという。そこで、自分が苦手だったソフトウェアの世界に飛び込み、大学2年の時にソフトウェア会社でアルバイトを始めてプログラミングに没頭し、最終的には取締役を務めるまでになった。開発した製品は大きな利益を上げたが、永井氏の心には虚しさが募っていった。

「当時開発していたモバイルアプリは数年経てば仕様が変わり、誰も使わなくなります。技術を社会に届ける面白さを教えてくれた一方で、数年単位で更新されるデジタルサービスだけでなく、より長い時間軸の社会課題にも向き合いたいと考えるきっかけになりました」

そう考えた永井氏が大学院で選んだのは、それまでのバックグラウンドにはなかった原子力だった。

「当時の日本で原子力はトップクラスの頭脳が集まる領域でした。教授から、原子力はソフトウェアも機械も物理も使う総合工学だから君のバックグラウンドが活かせる、と聞いたのが決め手でした」

しかし、原子力の分野は安全性や安全保障という観点や専門性の高さから、IT業界のオープンソースの発想とは真逆の世界でもあった。ある時、永井氏は研究室の古いプログラムをモダンな言語で書き直し、一部をウェブサイトで公開すると世界中からアクセスが集まり、優れた知見が分野や組織の壁を越えて活用される仕組みの重要性を実感したという。

「オープンなソフトウェアの世界と、優れた知が閉じている原子力研究の世界。この二つの世界の違いを同時に見たことが、起業への最大の転機となりました。優秀な研究者と大きな研究費を投じて生まれた技術が閉じた領域の外ではほとんど使われていないことに、強いもったいなさを感じたのです」

アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長 CEO 永井 歩


「知の民主化」を目指して。起業と収益化の苦悩


大学院1年目の2005年、永井氏はソフトウェア以外の業界でも技術の公開に価値があると信じ、起業した。特許情報を公開するサイトは多くのトラフィックを集めたが、収益化には高い壁があった。

「技術を公開して知を流動化させるという理念を掲げましたが、最初はマネタイズの手段が思いつきませんでした。そこで人材ビジネスを始め、年商10億円規模にまで成長し、事業を通じて研究者と企業をつなぎ、事業基盤を築きました。一方、創業時の問題意識を追求するには人材だけでなく技術、資金、事業を一体でつなぐ必要があると考えました」。さらに、事業を進める中でもう一つの大きな壁に直面した。

「創業当初は、技術情報を公開すれば誰かが使ってくれると思っていました。しかし、技術情報を公開するだけで社会実装につながるとは限りません。多くの場合、研究者や資金、設備、事業モデルなどが結びついて初めて、技術が社会で使われる状態になります。『情報を公開するだけでは技術は使われない』と気づいたこの失敗が、現在の事業モデルへとつながる大きなターニングポイントになりました」

技術を社会実装するには「三つの翻訳」が必要だと永井氏は語る。技術を顧客価値へ翻訳すること、研究成果を事業へ翻訳すること、そして社会的意義を投資判断の材料へ翻訳することだ。

転機となったのは様々な戦略コンサルティングファームとの協業だった。彼らと共にプロジェクトを進める中で、自分たちが持つデータベースと分野横断の専門知見が、いかに高い価値を持っているかに気づかされたのだ。永井氏をはじめ、複数の専門知識を持った人材が集まっていることは独自の強みとして輝きを増していった。

「アスタミューゼには複数の分野に専門性を持つマルチメジャーな人材が集まってきました。当時、こうした人材は一般的な企業では扱いきれず、やりがいを感じづらかったり、好奇心を満たせない人も多くいましたが、当社はその多様な知見を存分に活かせたのです。実際に直近でも、AIや量子技術、バイオなど多様なテーマを扱いながら日本を代表する企業の未来とイノベーションの意思決定を支援しています」

専門領域を横断できる人材とデータがあったからこそ、アスタミューゼは高い価値を提供できた。こうして事業は徐々に軌道に乗っていったが、当の永井氏は自社をコンサルティング会社とは定義していない。

「私たちは独自のイノベーションデータ、AI・アルゴリズム、専門知を組み合わせ、調査や分析にとどまらず、意思決定に使えるアウトプットと、その後の事業化・社会実装への貢献で価値を提供することを重視するスタイルを創業時から貫いています。アスタミューゼは未来をつくるための意思決定に伴走する未来創造インテリジェンスパートナーであり、お客様がR&Dの成果を社会実装へつなげる過程を支援する会社なのです。AIは情報の整理を速くできますが、何を実現したいのかを決め、人を巻き込み、最後にリスクを取るのは人です。その意思決定を支えるインフラになりたいと考えています」


専門性の枠を超えよ。知の融合が大きな価値を生む


自身のキャリアを通じて「知の融合」の価値を証明してきた永井氏。理系学生が抱えがちな「自分の専攻を活かせる仕事に就きたい」という想いに対して、あえて視野を広げることの重要性を説く。

「理系学生の多くが、自分の専攻を活かす仕事は何だろう、というところから入りがちです。しかし、今の社会は複雑で不確実です。5年、10年で社会的にインパクトのある成果を出そうと思ったら、自分の知見を他の分野と融合させるのが一番の近道です」

一つの分野を深掘りするだけでは、非常に時間がかかり、巨大な資本力を持つグローバル企業には太刀打ちできないケースも増えている。深い専門性は大きな武器であり、出発点であるが、その軸をもった上で複数の領域を学び、異なる専門家と協働すると、自分の知識で解決できる課題はさらに広がる。

「物理とバイオ、あるいはソフトウェアのロジックなど、根底にある基礎原理は共通していることが多く、実は領域を超えることはそれほど難しくありません。心理的な抵抗感を捨てて、知的好奇心をバイアスなく解放すれば、複数の技術分野を学ぶことは十分に可能です。特に今はAIもあり、学ぶチャンスは非常に広がっています。理系学生が持つ数学や物理のベーシックなリテラシーは、他の分野を学ぶ上でも強力な武器になります」

さらに永井氏は、ビジネスの世界における理系人材の優位性についても言及する。

「この10年ほどの変化として、技術系や研究開発出身の経営者が一気に増えました。なぜなら、技術を理解できないと会社経営が成り立たない時代になってきているからです。経営や財務、M&Aにも専門的な学びが必要ですが、R&Dや技術を深く理解する力は短期間で身につくものではなく、後から学ぶのは非常に難しい。だからこそ、理系学生が培ってきた数理的・科学的な思考は、ビジネスを学び、技術と経営をつなぐ人材へ成長するうえで、大きな強みになります。理系人材が経営知識も身につければ、技術と経営をつなぐ希少な役割を担え、社会から強く求められています。日本には学際的なアプローチを求めるニーズが山のようにあります。一つの専門性に固執せず、掛け合わせることで大きな仕事ができる。そのことに気づいてほしいですね」

ソフトウェア開発から原子力工学、そしてイノベーション支援へ。一見バラバラにも見えた永井氏のキャリアは、「技術の社会実装」という一本の線でつながっている。専門性を大切にしつつも専門性の枠を超えた先には、まだ見ぬ未来をつくり出すエキサイティングな世界が待っているはずだ。

アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長 CEO 永井 歩



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