トップインタビュー(テラモーターズ株式会社 代表取締役社長 徳重 徹)


環境・エネルギー問題解決の切り札として、成長を続けているEV(電動輸送機器)市場。その電動バイク領域で国内トップシェアを誇り、今後EVマーケットとして急速な拡大が期待されるベトナムとフィリピンに現地法人を設立するなど海外展開を加速させているのが、2010年4月に設立されたベンチャー企業、テラモーターズ株式会社だ。ホンダやソニーが成し遂げたような『日本発メガベンチャー』を、もう一度日本に作りたい―そんな想いを抱き、世界への挑戦を続けるテラモーターズ株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏に自身のキャリアと理系学生へのメッセージを聞いた。


PROFILE

徳重 徹(とくしげ・とおる)
テラモーターズ株式会社 代表取締役社長

 

1970年生まれ、山口県出身。九州大学工学部応用化学科 卒業。新卒で住友海上火災保険会社(当時)に入社し、商品企画・経営企画に従事。同社を退社後、米Thunderbird経営大学院でMBAを取得し、シリコンバレーで技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を手掛ける。2010年4月にテラモーターズ株式会社を設立。

 

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やりたかったのは、世界市場を切り拓く仕事


テラモーターズ株式会社は2010年4月に立ち上げられ、わずか二年後に電動バイクの国内シェアNo.1を獲得。フィリピンとベトナムに現地法人を設立し、東南アジア新興国における国家プロジェクトの入札に参加するなど、世界進出を加速させている。そのテラモーターズ株式会社の代表を務める徳重徹氏は、大学では化学を専攻し、新卒で入社したのは住友海上火災保険株式会社(当時)という異色の経歴を持つ。

「実家は山口県で、『巨人の星』の星一徹みたいな父親から『お前の成功は一流企業に行って偉くなることだ』と言われて育ちました(笑)。化学を専攻したのも、山口は化学メーカーが多いので、地元に就職させたかった父親の考えからです。

本当はソニーやホンダといったメーカーで世界市場を切り拓くような仕事をしたかったのですが、父親に猛反対されました。そこで、知名度も歴史もある大手企業を受けたのですが、会社を知るほどに『自分には合っていない』と興味がなくなっていく(笑)。その会社は、チャレンジ精神なんて求めていなくて、言われたとおりに粛々と仕事に取り組むことが至上とされる風土だったので、『自分がこの会社に入ったらとんでもないことになる』と思い、最終的に辞退しました。

そんなことをしているうちに、志望していた企業の選考はすでに終わっていました。そこで、『自分の言いたいことを言って、それを受け入れてくれる会社に行こう』と考え、出会ったのが住友海上火災保険(当時)だったのです」

住友海上では業務部に配属され、商品企画や経営企画といった業務に従事。非常に厳しい部署で優秀な先輩に囲まれ、ビジネス人として非常にいい経験をすることができたものの、「自分が本当にしたい仕事はこれだったのか」という想いがやはり持ち上がる。そして、「MBA留学を経てシリコンバレーで働く」という目標を掲げ、住友海上を入社5年で退社し、渡米。しかし、徳重氏はここで大きな壁にぶつかることになる。

徳重 徹


大きな挫折があったからこそ、今の自分がある


「留学先はスタンフォードかUCバークレイ、いずれかには合格するだろうと思っていたのですが結果は両方不合格。『シリコンバレーで勝負する』と啖呵を切って会社を辞めたのにですよ。本当に悔しかったし、情けなかった。とにかくMBAが取れるところを探し、アリゾナの大学に入学しました。

とはいえ、振り返ってみるとこの挫折があったのは大きかったと思います。『絶対にシリコンバレーに戻ってやる』という尋常じゃない思いで必死に勉強しましたから。実は、私は大学受験も失敗して浪人しているんです。私がいた高校は進学校で300人のうち浪人生なんて2~3人くらい。そんな環境だったから当時も打ちのめされましたね。でも、浪人時代があったから、いろんな本を読んでビジネスに関心を持つようになったんです。

過去にイノベーションを起こした偉人のエネルギー源はなにかというと、大抵は挫折やコンプレックスなんですよ。貧乏か、学歴か、異性にもてなかったのどれか(笑)。私も挫折があったからエネルギーが生まれたし、自分を見つめなおすために色んな本を読んで見識を広げることができた。受験での挫折がなかったら普通のサラリーマンになっていたかもしれません(笑)」 徳重氏は決意通り、MBA取得後はシリコンバレーに戻って技術系ベンチャーの立ち上げ支援事業に従事。そして、2010年4月に日本でテラモーターズ株式会社を立ち上げる。


日本発メガベンチャーの先駆けとなり、後進の挑戦心に火をつける


ホンダやソニーといった町工場から始まった企業が日本、そして世界を席巻した。しかし、モノづくり領域において日本を代表するようなベンチャー企業は久しく生まれていない。起業に関する法整備、経済環境の変化、少子化―様々な要因が挙げられるが、徳重氏はベンチャーが成長しない理由について、「常識にとらわれすぎているから」と語る。

「私が起業する際、多くの人から『日本には有力なバイクメーカーが複数ある。そんなところと戦えるわけがない』と言われました。しかし、EVとガソリン車では勝手が違いますし、世界に目を向けるとモノづくり系のベンチャー企業が10年程度でその国を代表する企業にまで成長している事例はいくらでもあります。アメリカのVIZIOや台湾のHTC、中国の新興メーカーだってスマホを何百万台も売っているんです。

日本にいると気付きませんが、海外の家電量販店でいろいろな製品の売れ筋ランキングを見てみると、設立10年程度のベンチャー企業が食い込んでいることは珍しくない。日本だと想像がつかないですよね。でも、国内から見える常識がすべてではありません。私はテラモーターズを日本発のメガベンチャーとして成功させることで、日本人の意識を大きく変えたいと考えています。一つ事例ができれば、必ず後に続く人たちが増える。この事業を成功させることで、私は日本をもっと元気にしたいんです」

目下、テラモーターズは世界市場における足場を固めつつある。フィリピンでは2016年までに電動3輪タクシーを10万台導入するという国家プロジェクトが進行中だが、テラモーターズは一次入札企業26社から最終選定の4社に選出。最終的に2~3社が選ばれるが、徳重氏は「手ごたえは十分」と語る。

「なぜ東南アジアをはじめとした新興国で電動バイクの需要があるのかというと、クリーンであることと、石油に依存しないという2点が大きい。多くの新興国では、排気ガスによる環境汚染が問題になっていて、みんなマスクと眼鏡をして通勤しています。そして、石油価格が非常に高いんですね。インドでも、日本と物価は全然違うのにガソリンの値段は大差ない。私たちは新興国で高い価値を提供できるのです」

もちろん、東南アジアは日本よりもマーケットの規模は格段に大きい。日本におけるバイクの年間販売台数は30万台程度だが、フィリピンで100万台、ベトナムでは300万台規模の市場がある。フィリピンの国家プロジェクト参入が実現すれば、ここを足がかりにテラモーターズの東南アジアにおける展開はさらに加速していくだろう。徳重氏は日本発メガベンチャーという目標を視界にとらえつつあるのだ。

電動バイク『A4000i』/EV3輪タクシー

[1]電動バイク『A4000i』スマホと連携して走行データをクラウドで記録することも可能 [2]フィリピンの国家プロジェクト参入を目指しているEV3輪タクシー


明治時代の先人を学び、世界に出よう


大きな挫折から人生の目標を見つめなおし、同時に目標に到達するためのエネルギーを得た徳重氏。そんな彼自身の経験を踏まえ、これから将来を考える理系学生へのメッセージを聞いた。

「人気企業ランキングに入っているからとか、安定してそうだからという理由で入社する企業を決めるのは非常に危険です。私が就職するときは『大手銀行に入れば一生安泰』といわれたものですが、現状を見ると同じ社名で残っているところはありません。会社があるだけましですが、名門といわれたメーカーが経営危機に陥って、リストラを繰り返し行っているのは決して珍しい話ではありません。会社に対して安定を求めること自体が、社会に対する認識不足、勉強不足だと感じています。

これからの社会における『安定』は組織に頼ることではなく、自分自身で切り拓いていくもの。これからはプロスポーツ選手のような感覚が求められるでしょう。自分に力があれば、ほかのチームへの移籍は難しくありません。社会の流れはそうなっているし、その流れは一層加速していくでしょう。

『やりたいこと』がなかなか見つからないという方は、本を読んだり人と会ったりして見識を広げてください。私は浪人、大学時代から様々な本を読んだり、人と会ったりすることで最終的に『大を成す』『世界でやる』『人生楽しむ』という3つのテーマにたどりつきました。このテーマは今も変わらず、デスクの前に貼ってあります。

これから社会に出ようとしている理系学生の皆さんには『世界を見て、歴史を知る』ことをお勧めします。『世界』を見るために特にお勧めしたいのは、シリコンバレーに行って同年代の若者がいま何を考えているのか聞いてくること。彼らは考えていることのスケールが全く違うので稲妻に打たれたような衝撃を受けますよ。基本彼らは「Change the world」で本気で世界を変えようと思ってビジネスに熱中している。そういった仕事は本当に大変だし、競争だって非常に厳しい。でもそれ以上の躍動感ややりがいを感じて皆のめりこんでいる。そんな彼らと話すことで、自分の視野の狭さや、スケールの違いにショックを受けてきてください。

『歴史』については、特に明治以降の日本経済がどのように成り立ってきたのかを学んでほしいですね。お奨めは、日本資本主義の父といわれる渋沢栄一や、松下幸之助らを紹介している『日本を創った男たち』という本です。激動の時代の中で日本経済の礎を作り上げた先人の考え方や信念は本当にすごい。関東大震災で会社だけでなく妻子までも失ってもなお立ち上がったシャープ創業者の早川徳次や、「現場を知る」ために東大卒の経歴を隠して工場の職工として働いた日産創業者の鮎川義介など、現代に生きる私達の想像を超える信念、行動を知ってほしい。同じ日本人である彼らにできて、私たちにできないはずがないんです。シリコンバレーに行ってからこの本を読んで『自分が何をしたいのか』をもう一度じっくり考えてみてください」