データサイエンティスト(株式会社電通国際情報サービス(ISID))

今やAIという概念自体は広く社会に浸透したが、ビジネスでの活用という点ではまだ成功例が少ない状況である。電通国際情報サービス(以下ISID)のAI専門組織であるAIトランスフォーメーションセンター(以下AITC)では、データサイエンティストたちが企業の抱える課題と向き合いながらAIの活用に取り組んでいる。AIをビジネスに活かし、価値を創出するためには何が必要なのか。AITCで実際に企業の課題解決に取り組むデータサイエンティストに話を聞いた。


自社製品を開発し、課題解決に取り組むAI専門組織

2020年に発足した全社横断組織のAITCは、それまでISIDが製造業の設計開発をはじめ、多様な領域に提供してきたAIソリューションや深層学習などの技術を集約し、ISIDの全事業領域における新規事業創出やDX推進支援を行っています。AITCでは、AIコンサルティンググループが課題解決に取り組む中で得られたニーズをもとに、AI製品開発グループが自社のソリューションを企画・開発するという形で連携を取っています。

具体的には3つの先進的な自社製品(文書活用AIソリューション「TexAIntelligence/テクサインテリジェンス」、AIモデル開発・運用自動化ソリューション「OpTApf/オプタピーエフ」、AI図面チェックソリューション「DiCA/ディーカ」)を開発し、実際のニーズを取り入れながら進化を続けている点が特徴です。


リアルなニーズをもとに進化を続けるAIプラットフォーム OpTApf

AIモデル開発・運用自動化ソリューション「OpTApf」の活用事例として、自動車のトランスミッション(変速機)を製造・販売する企業におけるDX推進プロジェクトを紹介します。世界トップクラスのシェアを誇る同社にはトランスミッションに関する膨大なデータが日々集まっていましたが、その膨大なデータを効率的に分析することができないため製品開発に活用できずにいました。

そこで私たちは、データサイエンスの専門知識がなくても高精度のAIモデルを構築・運用可能な「OpTApf」を導入しました。特に大きな価値を発揮した機能のひとつが、時系列データの前処理加工を自動で行う「タイムスフィーチャ機能」です。これは「時系列のデータを活用したい」というお客様の声から生まれた機能であり、データ加工の効率を大幅に改善しました。

もう一点、このプロジェクトではAIモデルの「解釈性の提示」も大きな成果をあげました。一般的にAIによるデータ解析では「なぜその結果が出たのか」という理由の分析が困難ですが、「OpTApf」ではAIモデルの判断根拠を説明する「解釈性の提示」が可能であるため熟練の技術者でなくても解析結果から多くの示唆を得られるようになり、実ビジネスにおける意思決定に貢献することができました。

OpTApfが必要な背景


試行錯誤のプロセスを共有し、AI活用の道筋を拓く

もうひとつの事例は空調メーカーにおける製品の需要予測プロジェクトです。それまで経験や勘で行っていた需要予測をAIで実現したいという思いがお客様にありましたが、需要予測は多くの要因が複雑に絡まる難しいテーマで、単純に高精度なAIモデルを構築するだけでは不十分です。業務の流れを深く理解し、どのようにシステムに組み込むかを考えないと最終的な目的である業務改善にはたどり着けません。

そこでキーとなるのがお客様といかに「並走」できるか、ということです。こちらから一方的にモデル構築やシステム開発を行うのではなく、お客様と共に業務整理・知識共有を行い、実際の業務課題に対し試行錯誤しながらAIモデルとそれを利用するシステムを作り上げていきました。このプロセスを通してお客様のAI活用能力が高まった結果、最終的に完成したシステムによって需要予測に関わる工数を大幅に削減できました。


社会との関わりを意識して研究に取り組もう

SIerという立場でデータサイエンスに携わる魅力は、多種多様な業界・企業の課題に対してコンサルティングからシステム開発・運用までのAIプロセスを一貫して提供できることです。未来の絵を描くだけでなく、その実現に向けてお客様と並走できる点は、ISIDの魅力だと考えています。

近年はデータサイエンスの仕事に興味を持つ理系学生も多いと思いますが、データサイエンティストに求められるのは技術だけではありません。お客様とコミュニケーションを取りながら課題を解決することが最大の目的であり、技術は手段に過ぎません。また、AITCでは社外のコミュニティや勉強会などに積極的に参加したり、書籍の執筆などに取り組んだりしている社員も多く、主体的に情報発信する外向きの姿勢も大切な素養のひとつです。

現在、私たちの多くはリモートを中心とした勤務をしていますが、定期的にコミュニケーションの機会を設け、バーチャルオフィスも導入しています。チームで働く以上、リモートであってもコミュニケーションの重要性は変わりません。

お客様や仲間とコミュニケーションを取りながら技術を駆使して課題を解決するのが、データサイエンティストの仕事の醍醐味です。学生時代のうちから、自分の研究がどのように社会に活きるか意識しながら研究に取り組むと、今までにない発見があるはずです。


PROFILE

小川 裕也

小川 裕也
株式会社電通国際情報サービス(2024年1月に株式会社電通総研に社名変更)
Xイノベーション本部 AIトランスフォーメーションセンター
データサイエンティスト
大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 修了