データサイエンティスト(あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

「CASE(コネクティッド、自動運転、シェア/サービス、電気自動車)」や「MaaS(Mobility as a Service)」といったイノベーションの進展により、自動車業界の常識が大きく変わり始めている。それに伴い自動車保険にも変化が求められる。損害保険業界ではビッグデータを活用した商品・サービスの開発が進められているが、一歩先を行くのが、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社だ。同社データソリューション室の鈴木氏に、データサイエンティストの仕事や、求められるスキルについて話を伺った。


業界に先駆けて、ビッグデータ活用に取り組む

損害保険会社は、実はデータの宝庫。車載デバイスで取得したテレマティクスデータ(走行距離や運転行動などの情報)、保険契約に関わるデータ、お客様からのご意見、事故や災害のデータなど、多様なデータが蓄積されています。こうしたビッグデータの分析・活用に、当社は業界に先駆けて取り組んできました。2017年には滋賀大学と産学連携協定を締結し、2018年にはデータサイエンスに専門的に取り組むデータソリューション室を設立。専門的な知見を持つデータサイエンティストの採用や育成に取り組んでいます。新たな商品・サービスの開発をはじめ、社内業務の高度化・効率化、米国や英国など先進的な拠点との連携、先端技術を持つ企業との提携など、今後のビジネスの発展において、データサイエンティストの活躍範囲が広がっています。


テレマティクス技術による自動車保険の開発

執務室での勤務風景

執務室での勤務風景

テレマティクスとは、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報工学)を掛け合わせた造語で、カーナビやGPSと移動体通信システムを利用し、様々な情報やサービスを提供することです。当社では、2004年からテレマティクス技術を活用した自動車保険の開発に力を入れてきました。2015年には、英国の大手テレマティクス自動車保険会社ボックス・イノベーション・グループ(BIG)を買収し、テレマティクス保険展開を本格化しました。

テレマティクス保険の開発には、デバイスから得られるデータを解析し、保険料や保険サービスに反映する、データサイエンティストの存在が不可欠です。当社が2018年に発売した『タフ・つながるクルマの保険』では、コネクティッドカーから取得した走行距離、そして速度超過・急アクセル・急ブレーキなどの運転特性データを基に算出した安全運転スコアに応じて保険料を設定します。また、運転挙動データに基づき、安全運転をサポートするサービスも提供しています。膨大なテレマティクスデータから、どのような運転挙動が安全/危険かを分析することが、この商品のコアとなります。

2020年1月に発売した『タフ・見守るクルマの保険プラス』では、当社指定の専用ドライブレコーダーを通じて取得したデータを基にしたサービスを提供。大きな衝撃を検知した時には自動的にコールセンターに通知され、オペレーターが連絡します。また、事故の際には走行データ・画像データを瞬時に取得・分析し、正確な事故状況の把握、スムーズな事故対応を行えます。このように、テレマティクス保険は安全運転を促進して事故を未然に防ぐだけではなく、万が一の事故の際にもお客様に安心・安全を提供できるのです。

自動車業界は大きな変革を迎え、デバイスや通信などテクノロジーの発展も続きます。それに合わせて、データ取得の方法や分析の手法も進化させていかねばなりません。常に新しいことにチャレンジできることが、当社のデータサイエンティストとしての面白さです。


専門スキルのみならず、コミュニケーション力、幅広い領域への好奇心が活きる

当社では、データサイエンティストとして必要な3つの専門性を設定しています。まず、「企画戦略」。先端技術の発掘や投資・提携など、データを活用したビジネスを推進する人材で、証券アナリスト、会計関連などビジネス系の知識が活きる分野です。次に、データの抽出・加工を行う「データエンジニアリング」。プログラミング技術や情報処理系の資格、ITストラテジスト、AWS関連の資格や知見が活かされます。そして、抽出されたデータを基に統計や機械学習を用いて分析をする「データサイエンス」。プログラミングや分析の技術に加え、統計検定やディープラーニング協会のE資格、Tableau関係の資格などが役立ちます。これらのスキルすべてを備える必要はなく、1つを深める人や、複数のスキルを身に付ける人もいます。

また、海外のカンファレンスや論文から最新情報を取得することも多く、海外の取引先とのやり取りも頻繁にあるので、英語も大切なスキルとなります。さらに、テレマティクス保険やCASE・MaaSに関しては、海外で先進的な取り組みが進められていることから、データソリューション室のメンバーが英国・米国・シンガポールに出向もしています。

専門性の高い職種ですが、データサイエンティストの役割は単にデータを分析するだけではなく、ビジネスを通して世の中に貢献していくことです。そのため、ビジネスサイドと連携するコミュニケーション力やプレゼンテーション力を身に付けることも大切です。そして数理・分析以外にも様々な領域の知識が活きてくるので、世の中の動きに幅広く興味を持っていただきたいと思います。


PROFILE

鈴木もも

鈴木もも(すずき・もも)
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
経営企画部 データソリューション室
イギリス ケント大学
Mathematics and Statistics course 卒業