理系の数理能力や確率統計の知識、プログラミングスキルなどを活かせる金融専門職『クオンツ』。クオンツ就職活動/インターンシップのスケジュールや就職難易度、新卒採用実績企業、選考対策について解説します。


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【1】クオンツとは

高度な数学的知識と統計的手法を駆使して市場の動きや将来起こりうるリスクを数値化し、株式・証券の価格付けや金融派生商品の開発・運用などのプロセスを、明確な理論のもとに体系化しようと試みる専門家「クオンツ(quants)」。

1970年代から80年代にかけて、アメリカやイギリスにおいて、物理学や数学のプロフェッショナルが金融市場における投資の課題に対して理論として修めようとしており、そのような手法を計量分析(quantitative analysis)と呼んだことに由来します。

近年では、金融市場や投資判断だけでなく、資産運用やリスク管理などにも計量分析の動きが広がり、クオンツの業務フィールドは多岐にわたってきました。このことから、一言でいえば「金融市場に関わる計量分析の専門家」といえるでしょう。銀行、信託銀行、生命保険、損害保険、証券会社、資産運用、ITコンサルティング、監査法人など、活躍業界は広がっています。

「これまでの経験や人の勘で決まってきた判断を、定量的にデータに基づいて決定する」といった部分がクオンツの魅力であり、研究や授業において裏付けとなる理論やデータに基づいて判断する理系学生には親和性の高い仕事といえます。

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【2】クオンツ就活の業界研究

クオンツは業務の特長からセルサイドクオンツとバイサイドクオンツの2種類に分けられます。金融商品を金融市場で売るクオンツをセルサイドクオンツ、金融商品を買ってリスクを保有してリターンを得るのがバイサイドクオンツとなります。

大まかには、銀行、証券は「セルサイドクオンツ」、資産運用、保険は「バイサイドクオンツ」と分類されることが多いです。

【業務内容】

クオンツ業務は大きく分けると、商品(デリバティブ)開発、リスク管理、システム開発、資産運用、市場動向および企業財務の分析(リサーチ)の5つの領域に分けられます。先に記載している業務ほど高い数学能力が求められる傾向があります。数学や理論物理の研究をしてきた方はもちろん、業務によっては経済系やその他理系専攻でも活躍しています。

●商品(デリバティブ)開発《銀行、証券会社など》

デリバティブとは、派生する(derivative)の英訳から来た用語です。株や債券、金利、日経平均株価など元となる金融商品と強い関係があり、一言で言えば、「リスクをヘッジする金融商品」です。高い収益性を追求する際には少ない資金でハイリスクハイリターンな取引をする商品がある一方で、「急速な価格変動が進んだ際の損失を回避する」といった特定の条件下におけるリスク低減する商品を開発する、といった側面もあります。

そのようなデリバティブ開発がクオンツの主な業務となります。債券の価格と関係するデリバティブを債券デリバティブというように、金融商品だけでなく、気候や降雨量に関連付けた天候デリバティブなども存在します。

これらの価格決定には、金融工学における確率微分方程式(有名なのはブラックショールズ方程式)の解を、その時々の市場状況に応じて数値解析やプログラミングで解くことが求められます。

確率論や測度論といった数学の基礎理論を研究している方はもちろんのこと、数理ファイナンスや素粒子、物性といった理論物理の研究をしている理系学生は研究に近いスキルや素養を活かせます。

●リスク管理《銀行、証券など》

デリバティブ商品自体、もしくは取引を行うトレーダーには様々なリスクが存在します。例えば、為替や金利といった市場リスク、企業の倒産や信用格付けといった信用リスク、用いたモデルに関してのリスク等が存在します。

クオンツはそれらを定量分析し、どれだけの量の取引を行うべきかを決定します。代表例として、VaR(バリュー・アット・リスク)という指標があり、このような指数を計算しています。デリバティブ開発業務同様に高度な数理能力が必要になります。

●システム開発《銀行、証券、資産運用、IT会社など》

高度な数式を用いた取引には複雑なシステムが必要になります。金融市場は刻一刻と変化するため、より高速化したシステムも不可欠。これらの市場向けシステム開発や運用、保守にも金融工学の知識が求められ、クオンツが活躍しています。計算を高速化するという観点では、モンテカルロ法や有限差分法の知見が必要になります。

●資産運用《資産運用、保険会社など》

資産運用の現場では、アナリストなどが銘柄について詳細に調査、分析を行い、ファンドマネージャーがその情報をもとに投資先の銘柄を選定してポートフォリオを構築するイメージをお持ちの方が多いかもしれません。これは、ファンドマネージャーの経験と勘で運用するものであり、ジャッジメンタル運用/ファンダメンタル運用と呼ばれます。

対して、ファンドマネージャーの判断ではなく、株価や業績といった企業データ、金利やGDP成長率、雇用情勢など経済データなどに基づき、統計学などの知見を使った運用モデルに基づいた手法もあります。これをクオンツ運用と呼びます。運用モデルでは、ファンドの運用方針に基づいて定量的に各資産に対する投資比率の決定や銘柄選定を行う形となります。

資産運用会社のクオンツは、どのようなルールを運用モデルに組み込むかをデータに基づき考えます。その後、データベースの基盤を用いて、運用モデルの開発に携わります。モデル開発後、期待されるパフォーマンスが発揮されるかどうかのテストを行い、検証を積み重ね実用化に向けて進めていきます。

機関投資家である保険会社のクオンツは少し立ち位置が異なり、保有資産の運用高を増やすor減らさない(リスク管理) うえでの課題を定量的に解決することが求められます。お客様から預かった莫大な保険金を運用して、将来の支払いに向けて常に備えます。その中には変額年金のように保険会社の運用益に応じて支払い金額が変わる商品を扱っており、万が一に備え、最低保証のオプションをつけています。保険金の収支の仕組みがデリバティブの「オプション理論」と似ており、金融工学の知識が必要な場面があります。

大学1、2年生の微分積分、線形代数、確率や統計といった数理知識が必要になり、数学科や物理学科以外にも、化学系や医学系、建築系など幅広い専攻の方が活躍しています。

●市場動向および企業財務の分析(リサーチ)《銀行、証券、資産運用会社など》

リサーチ関連の業務を担うクオンツは「クオンツアナリスト」とも呼ばれます。セルサイド、バイサイドで、分析結果を発信する相手が異なります。

セルサイドでは、一般大衆向け、もしくは顧客企業等の外部の方に向けて、金融市場の動向や各業界、企業の分析結果をレポートとしてまとめ発信します。対して、バイサイドでは、自社の運用部門・ファンドマネージャーに向けて分析結果を共有し運用のサポートをしています。

そのほかに、資産運用モデル開発や、データを取り込むデータベース構築を行い、データ分析の基盤を整えます。

大学1、2年生の微分積分、線形代数、確率や統計といった数理知識で事足りるため、数学科や物理学科以外にも、化学系や医学系、建築系など幅広い専攻出身者が活躍しています。

【3】クオンツインターンシップ/就活のスケジュール・時期

クオンツの就職活動は一般的な就活時期よりも、早期から行っているケースが多く、早めに情報収集することが重要となります。また、インターンシップの重要性も高く、サマーをはじめとしたインターンシップに参加し、早期に企業と接点を持つことは大きなアドバンテージとなります。現在の就職活動ルールでは、卒業の前年度(学部卒なら3年生、修士了なら1年生の4月以降)から動き出すのが一般的です。下記に例年の一般的なクオンツ就活スケジュールを記載していますが、年度によって企業の採用スケジュールは変わるので、自身でしっかり情報収集しましょう。

例年のクオンツ就活生の動き

4月~6月 翌年度が卒業予定の学生(学部3年、修士1年など)を対象としたサマーインターンシップ情報の公開が始まり、6月中旬からエントリーシート受付を締め切る企業が出始める。※2026年卒業予定であれば、2024年の4~6月が当該時期となります。
7月 サマーインターンシップの選考(面接など)開始。
8月~9月 サマーインターンシップ実施。銀行、証券、保険、資産運資産運用のインターンが主に開催される。
10月~11月 冬季インターンシップの情報公開が公開、クオンツ就活では、秋冬にかけて、インターンを実施する企業が多い。
12月 冬季インターンシップが始まる。資産運用会社、証券、銀行、保険のインターンが主に開催される。
1月~2月 ウインターインターンシップの実施がピークに。一部企業の本選考が始まる。
3月 採用選考が本格化。エントリーシート締切、筆記テスト、面接など選考のピーク時期。一部企業で内々定出しが始まる。
6月 内々定通知。

※上記日程は25卒までのクオンツ就活時期をもとに作成しています。就活時期は年度によって前後する可能性があるので、自身でしっかり情報収集することをお勧めします。26卒以降については専門人材への採用早期化、対面イベント開催の活発化、就活プロセス/時期が変動する可能性があるのでご注意ください。

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【4】クオンツの就職難易度、求められるスキル・適性

新卒の就職活動において、クオンツ採用を行っている企業は多くなく、さらに各社の採用人数は数名程度です。それゆえ、就職難易度が高い職種といえるでしょう。各企業の新卒採用において評価するスキルは異なりますが、比較的求められることが多いスキルや能力についてまとめました。

求められるスキル・適性

数理能力 就活時点では、金融工学やデリバティブに関しての知識は必須ではないものの、高度な数学の知識が求められる。一部の企業では筆記試験も課されるが、特に大学の統計や確率微分方程式などの知識が重要となる。
セルサイド:測度論、確率微分方程式等の金融工学
バイサイド : 統計、データサイエンス、ファイナンスの知識
ファイナンス 計量経済学やファイナンスの知識があったほうがインターンのワークや、各種概念など理解がしやすい。
学部学科 結果的に数学科出身者の採用が多いが、近年では、理論系の物理専攻の方が同じくらい多い。その他情報工学、工学系、航空宇宙、経済などの専攻が続く。修士・博士が大多数で、学部卒が採用につながるのはかなりのレアケース。
コミュニケーション能力 クオンツはその業務の特性上、様々な部門の社員とコミュニケーションをとる機会がある。ファンドマネージャーやトレーダーに向けて、データや数値に基づいて提言して方針決定に携わることもある。面接においても、研究内容について聞かれることも多く、なぜその数値を設定したのか、そのような行動を起こしたかなど背景まで説明できる必要がある。「自分の研究を門外漢に向けていかにかみ砕いて説明できるか」というような、相手の背景や理解度を推し量れるコミュニケーション能力は必須。
理系センス リサーチ業務や将来予測をする上で、研究や授業で培ったスキルや理系センスが役に立つ。例えば、結果につながらなかったときに、「このパラメータや試薬の量を変えればよいのでは」、「この要素がボトルネックなのでは」という気付きのセンスは理系独特のものであり、実際の業務でも活かされる。研究活動で、分からない部分や方針を教授に丸投げするのではなく、「何が分からないか、それを今後どうしていきたいか」と論理的に考える習慣を身に着けておくことが重要になる。
ビジネス感覚 クオンツのポジションによっては、取引を行うディーラーとのやり取りも発生する。ディーラーはあくまでお客様の利益重視の目線だが、クオンツはアカデミアの目線になっており、すり合わせが必要になる。「与えられたデータをもとに状況を正確に把握し、今後どうしていくか」というビジネス感覚が強く求められる。

【5】クオンツとアクチュアリー、データサイエンティストの違い

数理能力を活かせる専門職として、アクチュアリーやデータサイエンティストがありますが、主な違いは2つあります。

1.志向性の違い

クオンツは研究家気質といえます。金融工学や理論はあるものの、状況に応じて組み替えたり、調整したり、真新しい考えで進めたりと0→1を得意とする方が活躍しています。また、計算手法やデータ分析の手法自体が重要であるため、純粋な「数学やデータ分析の専門家」と言えるでしょう。

アクチュアリーは、勉強が好きな方、課題をコツコツ処理していくのが得意なタイプが活躍しています。何より、難易度の高いアクチュアリー試験対策の勉強を続ける胆力が必要になります。また、計算手法や内容はある程度画一的に決まっていることもあり、計算手法というよりも、その結果や数字設定の解釈が重要になるので、あくまでビジネスマン気質、「会計周りの専門家」とも言えるでしょう。

データサイエンティストは、あくまで情報学や統計学に基づいた判断を行います。その補填として確率や統計といった数理知識を活用しています。市場向けのデータ分析では目的の量を推定するため、様々な傾向や関係を考え、どんなデータをどのように分析するのかといったセンスが必要と言えるでしょう。

2.専門の範囲の違い

クオンツは、金融市場や資産運用、金融システムなど金融取引における専門家と言えます。対して、アクチュアリーは、金融の中でも、保険や年金分野での専門家になります。

データサイエンティストは金融市場はもちろんのこと、その判断に結びつく事業やビジネスの概観理解も進める必要があります。ビジネス志向とデータ処理の両面が求められる職種と言えるでしょう。

【6】クオンツや金融工学コースの新卒採用実績がある就職先企業

クオンツ、金融工学でのコース採用可能性が高い企業、就職先として実績のある企業をまとめています。

銀行 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、ゆうちょ銀行、農林中央金庫
証券 野村証券、大和証券、みずほ証券、SMBC日興証券
資産運用 野村アセットマネジメント、大和アセットマネジメント、三井住友トラストアセットマネジメント、日興アセットマネジメント、アセットマネジメントOne、三井住友DSアセットマネジメント
保険 第一生命保険、かんぽ生命保険

金融工学の知識を活かせるコース採用実績

クオンツコースと名乗ってはいませんが、金融工学や統計といった知識が活かせるキャリアが切り拓ける可能性の高い会社になります。

銀行 北国フィナンシャルホールディングス、千葉銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行、商工組合中央金庫
資産運用 ニッセイアセットマネジメント
その他 シンプレクス、NTTデータルウィーブ、JERA、三菱UFJトラスト投資工学研究所(MTEC)、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、日本生命、PwC Japan有限責任監査法人、ゴールドマンサックス、日本取引所グループ、みずほリサーチ&コンサルティング、あずさ監査法人、クオンツリサーチ、日本銀行、金融庁
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《クオンツを志望する理系学生へのメッセージ》

クオンツ就職を希望する理系就活生と話をしていて気になるのは「高度な数学スキルを持っていなければ目指せないのでは」と考えている方が多いことです。もちろん、大学1、2年生レベルの数理スキルは必要ですが、セルサイドかバイサイドか、どんな業界や業務で活躍したいかに応じて、求められるスキルや志向性は様々です。

本気でクオンツを志望するのであれば、「その数理能力を活かしてどんなクオンツを目指したいのか(そもそも数理能力を活かせる仕事としてクオンツが最適解なのか)」をしっかり考える必要があります。そのためには、クオンツの仕事内容やキャリアを深く理解することが不可欠。

また、自身の研究内容の細部まで説明して理解させる力が求められるため、就活のみに注力するのではなく、研究活動もおろそかにできません。WEBや書籍だけでなく、OB/OG訪問やインターンシップなど自身の足でクオンツの実態や各社の風土、最新の取り組みといった情報を収集することで、目指すべきクオンツ像のイメージを固めていってください。

理系ナビでは、クオンツ就活に関する情報発信、就活相談、イベント開催を随時行っているので、ぜひ活用してください。

理系ナビ キャリアアドバイザー/クオンツ担当 三好


お知らせ

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