数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野異業種研究交流会 2024 イベントレポート

今データサイエンスやAI活用が当たり前となった世の中において、数学の重要性がますます高まっている。通信や金融、メーカー、IT、官公庁といった様々な業界でその基礎理論を支えているのが数学といえるだろう。

数理系学生に産業界で活躍できるフィールドの広さを認識してもらいつつ、アカデミックと民間での双方向の知識共有の場として、2024年10月19日に開催された『数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野異業種研究交流会2024』。

本イベントは、日本数学会・日本応用数理学会・統計関連学会連合が主催となり、東京科学大学(旧東工大大岡山キャンパス)にて、博士課程を中心とした数理学生と企業・省庁等25社が参加。学生と企業の参加申し込み人数は200人を超え、同イベント史上最大の規模となり、数理分野の注目度・成長性の高さを示す賑わいとなった。


数学を活かした社会貢献、活躍フィールドを知るイベント

開会の挨拶

開会にあたり、主催者である日本数学会理事長 鎌田聖一氏、日本応用数理学会会長 速水謙氏、統計関連学会連合理事長 宿久洋氏が数学と産業界のさらなるマッチングへの期待を述べた。

続けて、文部科学省 研究振興局 基礎・基盤研究課長の中澤恵太氏が来賓挨拶として登壇。「数学・数理科学の期待と重要課題」と題して講演を行った。中澤氏から、普段の業務において抽象化、未知への挑戦といった観点で産業界の仕事が結びつくことを紹介した。また、今後の学問の進展には数学が中心になること、また他分野との掛け合わせにより新たな価値創造につながるとのこと。そのような数学のポテンシャルを用いて社会イノベーションを起こしてほしいという期待感を述べた。

数学系の学生は産業競争力の源泉

ダイキン工業株式会社の高根沢氏

第一部の締めくくりとして、空調グローバルNo.1のトップ企業であるダイキン工業株式会社の高根沢氏による基調講演が行われた。同氏の欧州企業での実務経験などにも照らし、日本と欧米の製造業へのアプローチの違いを解説。その上で、日本のトップ企業がどう変わろうとしているか、そこでいかに数理素養を持つ人材が必要であるかを強調した。

昨今、産業界を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、同氏は「原理から見直す力」、「細部を擦り合わせる力」の2つがともに重要であると述べ、前者には特に数理人材が得意とする抽象化・一般化の能力が必要であると訴えた。このメッセージは会場にいた学生達が産業界で活躍するイメージを膨らませるのに大変有用なものとなったようで、講演後も同氏への個別質問が相次いでいた。

数理系が活躍できる企業による会社紹介

続いて、参加企業25社(一部省庁などを含む)による企業説明会が行われた。各企業の持ち時間は3分と限られていたものの、各社の魅力が存分に盛り込まれていた。

プレゼンターには数理系出身者が多く、学生にとって多くの企業が魅力的に映っただろう。

数理系学生によるポスターセッション

午後には学生71名によるポスターセッションが開催され、参加企業からも熱視線が注がれた。参加企業にも数理系出身者が多く各ブースで活発な議論が交わされていた。

続いて企業ブースが設けられ、訪問学生に対して各企業が自社の業務内容や、数理系出身で活躍している先輩社員の紹介などを行った。

ポスターセッション

数理系学生と企業との懇親会

数理系学生と企業との懇親会

最後に懇親会では会場投票に基づき優秀ポスターセッションが選出され、表彰式が行われた。

懇親会では今回のイベントの盛況を受けて、来年の開催も発表。企業と学生のよりカジュアルなやり取りに加え、学生同士で進路について意見交換し合う姿も多く見られた。


最後に

振り返って、今回のイベントは数理系学生が進路を考えるために大変有用なイベントであった。

今回の参加者は大学院生が中心だったが、研究室配属前の低学年にも進路選択に関わる有用な情報を多く提供していると言えるだろう。規模・熱量ともに非常に高水準であり、同イベントが築いてきた歴史が伺えた。


ベストポスター賞に輝いた学生からの声


原田健太郎(九州大学大学院 数理学府 M1)

◯研究内容

アメーバの古典的条件付けに関する数理モデル

◯受賞・交流会の感想

今回の交流会では研究の展望や将来性を評価してもらいました。期待に応えるためにも、一層研究に取り組み、理論を完成させ、論文にまとめたいです。

また、今回の交流会を通じ、数学者が積極的に社会で活躍することが日本産業の活性化に繋がることが分かり、感動しました。


軽部友裕(東京大学 数理科学研究科 D2)

◯研究内容

Neural Sheaf Diffusionと交通予測

◯受賞・交流会の感想

発表では直観的にわかりやすい図を入れるだけでなく、聴講者によって説明の粒度や重点を置く場所を変えるなど工夫を行いました。ベストポスター賞をいただけたのはとても光栄なことで、多くの工夫があったことが評価されたのではないかと思っています。

交流会では知名度の高い企業だけでなく、様々な方の話を聞けたため、業界理解の助けになりました。


佐々木裕貴(九州大学 D1)

◯研究内容

四色定理と同値な命題

◯受賞・交流会の感想

一般的に、数学は専門外の人から理解してもらうことは難しいですが、私の研究モットーは「一般の人にも分かりやすくて面白い研究」であり、このことが本受賞にも繋がったのではないかと思います。

自身の研究を、普段では交流のない幅広い層の人に見てもらえ、また数学活かした様々な業種の話を聞くことができ、自身の研究・キャリアともに視野を広げることができました。


幕田 涼(東京大学 総合文化研究科 D3)

◯研究内容

Spin-orbit coupled Hubbard skyrmions

◯受賞・交流会の感想

私の発表はかなり物理寄りの内容の発表で分野が少し遠く受賞は難しいかなと思っていたので名前を呼ばれたときには驚きました。熱心に色々な質問をして面白どころを引き出してくれた来場者の皆様のおかげもあると思います。ありがとうございました。

何より驚いたのは企業における研究の場で「向こう数年で役に立つというわけではない研究」も行われていたことです。基礎研究をしたいならアカデミアだ、と思うとポスト問題の不安も大きいですが、自分のしたいことのできるキャリアにもいろいろあると感じました。

参加企業からの声


  • 「金融、ITといった領域では数理系人材の活躍が知られてきているが、製造業で数理人材の活躍領域があるということはまだまだ認知度向上の余地がある」
  • 本交流会では、求めているスキルや素養がマッチした学生のみいらっしゃるため、大変助かっている。大学ごとのイベントでは出会えない層に知ってもらえる機会と考えている。
  • 博士人材に対する期待は社内で年々高まっている。社内の研究員の協力あってのことだが、数学だけでなく他分野の交流会にも積極的に出ていきたい。
  • 通年で博士採用には注力しています。学生の皆さんにももっと知ってもらえればと。

【主催】

日本数学会、 日本応用数理学会、 統計関連学会連合

【協賛】

大阪大学数理・データ科学教育研究センター、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、京都大学数理解析研究所、京都大学大学院理学研究科、中央大学AI・データサイエンスセンター、東京大学数理・情報教育研究センター、東京大学大学院数理科学研究科数理連携基盤センター、東北大学数理科学共創社会センター、明治大学先端数理科学インスティテュート、明治大学大学院先端数理科学研究科、早稲田大学基幹理工学部・重点研究領域・数理科学研究所

【後援】

文部科学省、経済産業省、日本経済団体連合会