理系の専門性や論理的思考力を活かせる職種として注目が高まるデータサイエンティスト。IT業界にとどまらず、活躍の場はあらゆる産業へと広がっている。一方で、生成AIにより一部の業務は代替可能になり、その役割は大きく変化しつつある。今後のデータサイエンティストにはどのようなスキルやマインドが求められるのか。一般社団法人データサイエンティスト協会 事務局長の佐伯諭氏に聞いた。
PROFILE
佐伯 諭(さえき・さとし)
一般社団法人データサイエンティスト協会 事務局長
【データサイエンティスト協会について】
データサイエンティストという専門職の健全な発展と社会貢献を目的に、2013年に設立。データサイエンティストに求められるスキルや知識の定義、検定プログラムやトレーニングの提供、情報発信などを通じて、同職種を取り巻く環境の整備を行う。データサイエンティストを目指す学生や教育機関、採用企業に向けた知識の共有やネットワーク提供、交流促進にも取り組み、データサイエンス業界全体の発展を支援している。
AI時代に変化するデータサイエンティストの役割
データサイエンティスト協会では、データサイエンティストを「データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル」として定義しています。
これまでのデータサイエンティストは、企業内に蓄積されたデータを集めて解析を行う「分析」作業が主な役割でした。しかし、ディープラーニングや生成AIの進化により、現在ではプログラミングやデータ分析のプロセス自体が自動化・コモディティ化されつつあります。AIが分析を代替する時代において、これからのデータサイエンティストに求められるのは分析作業をこなすスキルだけではありません。「何が課題なのか」を見極める「問いを立てる力」や、AIをどうビジネスに組み込んでいくかを設計する「価値創造力」へと、その役割は大きく変化しています。企業がDX・AXの取り組みを通じ、新たな価値創造に向かうにはAIの力が必要なわけですが、その変革の中心的な役割をデータサイエンティストが担うことになるだろうと考えています。
●以前求められていたスキル
●今後求められるスキル
IT・金融からあらゆる産業へと、広がる活躍の舞台
2010年代、データサイエンスといえばインターネット企業や金融業など、ビッグデータを持つとされる産業で発達してきました。しかし、昨今は様々な場所でデータの取得が可能になり、あらゆる業種・業態で活躍の場が広がっています。
農林水産業などの一次産業も例外ではありません。米作りを例にとると、一人の農家が一生のうちに経験できるPDCAサイクルは50回(50年)程度という制約がありますが、これらのサイクルをデータでつなげば、就農1年目から50年分の経験値にアクセスすることが可能になります。他にも、飼育場や家畜に付けたセンサーや画像解析により、畜産を管理することで生産効率を上げる取り組みなど、これまでデータと無縁だった領域に革新が起きています。
さらに、ウェアラブルデバイスのデータからスポーツの試合に勝つためのチーム戦術の最適化や選手の健康状態の把握もできるようになりました。あるいは、フェンシングの剣先の動きをデータで可視化してエンターテインメントに昇華させたりと、スポーツやアートとの掛け合わせと呼ぶべき分野も進んでいます。「経験や感覚」に頼っていた社会の改善点を科学の力で変革し、数十億~数百億円規模のプロジェクトの成否を左右するなど、そのインパクトとやりがいは非常に大きい職種です。
また、データドリブンに戦略を考えられるデータアーキテクト、AIを用いた開発・実装を推進するAIエンジニアなど、データサイエンスのスキルが活かせるポジションは多くあります。データサイエンティストの需要や価値は高まり続けています。
データサイエンティストに向いている人物像の変化
理系の皆さんが大学で培ってきた論理的思考力をはじめ、数理・統計の知識や機械学習、ITエンジニアリングスキルなどは大きな強みになります。「即戦力」として若いうちから実践経験を数多く積むための武器になりますし、「出力されたデータの分布を見て直感的におかしいと思える感覚」などは一朝一夕では身につかない、理系ならではのアドバンテージです。
かつてはデータサイエンティストに向いている人物像として、「論理的思考ができ、一つのことに集中できる人」といったことが言われてきました。ですが、近年のフィールドの広がりを考えると、それも変わってきているように感じます。
アートや歴史をデータサイエンスと掛け合わせるなど、いくらでもフィールドは広がります。物事を分析的に見ることができるのに加え、好奇心旺盛で変化を楽しめる人が、これからのデータサイエンティストに向いている人物像といえます。
感性を磨くことが、「問いを立てる力」につながる
実際のビジネスでは、人の感情などの「データ化されない要素」が多々あります。データの裏側にある背景を想像してビジネスの仮説を立てるためには、自身の「感性」を高めることが不可欠です。
大学の勉強だけでなく、歴史や文化、芸術に触れるなど、リテラシーや教養を深めることが大切です。旅や読書を通じて人間理解を深め、「どこに疑問を感じるか」という感性を磨くことが、結果的にデータサイエンティストに必須の「問いを立てる力」につながっていきます。
変化の激しい時代だからこそ、理系学生の皆さんには、「日々変化し続ける世界を面白がる」姿勢を持っていてほしいと思います。変化を乗りこなして楽しむうちに、自分にとって本当に大切なことや、意味のあることに出会えるはずです。その確率を少しでも上げるために、大学でしっかり学び、旅や本を通して人と出会い、多くのことを経験してください。

