あずさ監査法人(KPMGジャパン)

企業経営におけるDX推進およびデータ活用の重要性が高まる中、監査法人もそれは例外ではない。社会に信頼を与え、企業経営の根幹を支える監査法人では膨大な企業活動のデータを扱っており、最新テクノロジーを用いた監査の高度化やソリューションの開発が活発に進んでいる。本記事では、世界4大監査法人のひとつKPMGのメンバーファームである、あずさ監査法人におけるデータサイエンティストの活躍の様子を紐解いていく。


PROFILE

白木研吾

有限責任 あずさ監査法人(KPMGジャパン)
Digital Innovation & Assurance統轄事業部 Digital Innovation事業部
データサイエンティスト
東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 修了
白木 研吾(しらき・けんご)


データサイエンスに期待される会計監査の高度化と企業経営に資する深い洞察


近年、企業活動の様々な領域でDXが進み、取り扱うデジタルデータが急増している。企業経営のあらゆる局面でテクノロジーを最大限に活用するといった変化が起こり、データサイエンスに対するニーズが年々拡大している。そのような状況下で監査法人において求められるのは、テクノロジーを活用した会計監査のDX、そして、企業が変化の激しい時代を生き抜くためのデータドリブンな経営を支える「付加価値のある洞察」を提供すること。

あずさ監査法人のDigital Innovation事業部でデータサイエンティストとして働く白木研吾氏は、前職では総合電機メーカーの研究職として、データサイエンスを用いたファクトリー・オートメーション(FA)に携わってきた。異なる業界を経験してきた白木氏は、データサイエンティストの視点から監査法人という業界を次のように説明する。

「テクノロジーは会計監査の高度化を実現するための手段です。監査法人のデータサイエンティストには、テクノロジーを最大限に活用しながら公認会計士をはじめとする多様な専門家と共創して価値を生み出すことが強く求められています」(白木氏)


先進テクノロジーの活用が盛んな監査法人というフィールド


ここでは監査DX、すなわち「データを活用した会計監査の高度化とは具体的にどのようなものか」をもう少し詳しく見てみよう。わかりやすい例として、コロナ禍以降は帳票のデジタルデータ化が急速に進んだが、紙からデータに代わることによって不正や改ざんが行われていないかの確認をデジタルデータ上で検知しなければならなくなった。

白木氏自身が機械学習モデル開発に携わった事例としては、過去に発生した不正事例や訂正報告をもとに企業の会計不正が発生するリスクを数値化する検知ツールであるFraud Risk Scoring_aiが挙げられる。このモデルの特徴は不正リスクを単純にアウトプットするだけでなく、どのインプットがどのように怪しいのか、そのリスクの根拠や内容まで説明可能な点だ。さらにはデータの類似度とともに、同じような不正事例までリストアップできる。ここで用いられた技術はあずさ監査法人のDigital Innovation事業部が独自に開発したものであり、特許も取得している。

あずさ監査法人では他にも、生成AIを活用した会計・監査対応チャットボットを開発し、社内で活用しており、いかに監査法人業界がデータサイエンスの活用に積極的な世界かが伺い知れる。

「あずさ監査法人では、データサイエンティストと公認会計士という異なる専門性の人々がフラットに議論しあうことで新しい価値が生み出されています。最先端の技術領域に積極的にチャレンジしながら実務で必要とされるツールを開発できるのは、監査法人で働く醍醐味だと感じています」

また監査法人の事業領域は、会計監査だけでなくアドバイザリーにも広がっている。アドバイザリーの場合には、クライアントに対して直接貢献することも可能だ。白木氏自身、金融機関に対して機械学習モデルを用いて融資先の評価を支援したこともあるという。監査法人におけるデータサイエンティストの活躍フィールドは想像以上に広がっている。


分析スキルの向上も、社会への貢献も、 どちらも叶えられる


監査法人のデータサイエンティストにフィットするのはどのような人材なのだろうか。もちろんデータ分析の知識やスキルがあるのに越したことはないが、理系学生の場合、それ以上にマインドセットが重要だと白木氏は強調する。

「具体的なスキルよりも向上心を持って学び続ける姿勢が不可欠です。また、専門家ではない人に対して分析の結果を理論的に説明するスキルも求められます。理系学生の場合、入社時点で会計の知識は必ずしも必要ではありません。実務経験を通じて会計の知識を学びながら成長していくことができます」

あらゆる企業活動のデータが集まる稀有な環境で、公認会計士をはじめ様々な専門家と協力し、多様な分析手法を試すことができるのは、監査法人でデータサイエンティストとして働く大きな魅力だ。日々の業務を通じて世の中の動きもダイナミックに感じ取れるだろう。

高度なデータ分析のスキルを磨きたい。データ分析を通じて社会にも貢献したい。そんなキャリアビジョンを持つ理系学生にとって、監査法人はどちらも叶えられる環境だと言えそうだ。