生命保険会社や損害保険会社、信託銀行など、金融業界で活躍する数理の専門家、アクチュアリー。保険商品や企業年金の設計、経営の中枢に近いリスク管理、海外子会社との連携など、事業戦略上の極めて重要なポジションで理系人材が多く活躍している。理系人材のキャリアとして注目が高まっているアクチュアリーとは、どんな職種なのか。アクチュアリーを目指すために必要な能力とは。日本アクチュアリー会 事務局長 冨村 雄三氏に聞いた。
冨村 雄三
公益社団法人 日本アクチュアリー会 事務局長
日本アクチュアリー会正会員
1899年(明治32年)に設立された日本アクチュアリー会。「Think the Future, Manage the Risk」をスローガンに、保険数理に関する事項に関わる公益法人として、保険業法上の指定を受け、保険数理などの専門知識を有する者の育成や責任準備金の計算基礎の検討を実施しています。アクチュアリー試験の運営・実施をはじめ、会員の教育・成長機会を豊富に準備しており、各種講座やセミナー、研修なども開催しています。
日本アクチュアリー会のHPはこちら金融フィールドで活躍する“数理のプロフェッショナル”
アクチュアリーは統計や確率といった数理的な手法を用い、不確実な事象を定量的に評価する数理の専門家です。生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、そして監査法人やコンサルティング会社など、様々な分野で活躍しています。
数理的な素養と専門性を駆使して真実を見極め、経営の意思決定に関わる重要な判断材料を提供しています。ビジネス環境が急速に変化し、先の見通しが難しくなる世の中において、将来のリスクを予測するアクチュアリーは現在、社会においてより重要性が高まっている専門職といえるでしょう。
時代に合わせて活躍フィールドも拡大。ニーズもさらに高まる
「数字のあるところにアクチュアリーあり」と言われるように、アクチュアリーは実に多彩な領域で活躍しています。保険会社では保険料の設定といった商品企画、決算など、会社の事業を支える様々な部署でアクチュアリーが働いており、信託銀行では企業年金の制度設計やコンサルティングを通じて企業の退職金制度を支えています。
近年では、そうした伝統的な領域以外にも活躍フィールドはさらに広がっています。例えば、保険会社の経営戦略に関わるERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)やデータサイエンスです。テクノロジーの発展により扱えるデータが増え、より複雑なリスクを分析できるようになれば、アクチュアリーの仕事範囲はさらに大きくなるはずです。
グローバル展開を進めている保険会社では、海外子会社との連携などで活躍する若手アクチュアリーも目立ちます。さらに、資本規制の高度化など大きな変化に対応するためにも、保険会社や信託銀行におけるアクチュアリーへのニーズは高まり続けています。
数字と密接に関わるアクチュアリーですが、計算だけをしているわけではありません。定量的な評価にもとづき、様々な側面から経営幹部などに提言する機会も多くあります。自身の仕事の結果が事業の成長や経営の意思決定につながるという重責ではありますが、やりがいの大きな仕事です。
数理的な素養のほか、探求心やコミュニケーション能力も求められる
アクチュアリーは、決して高難度な数学のスキルが求められるわけではありません。必要となるのは、微分積分や確率、統計など大学1年生レベルの数学です。数理的な素養が求められるので、数学科や物理学科の出身者は多いですが、機械工学、情報工学、経営工学、経済学といった多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。
また、会社の商品や経営に不可欠な情報やデータを扱うアクチュアリーは、探究心をもって何事にも取り組むことが必要です。専門家として正しい判断をするために、何が真実なのか、本質を突き止めようとする気持ちが大切です。これがプロ意識に繋がってきます。そして、商品部、営業企画部、経営企画部、経営陣など、様々な部門と日常的に連携しながら仕事をしています。その相手は、必ずしも数理的な専門知識を持っているわけではありませんから、相手が知りたいことや知識レベルに合わせて説明できるような、コミュニケーション能力も必要です。
アクチュアリー正会員になるまでの道
日本アクチュアリー会が毎年実施する資格試験の全科目に合格し所定の研修を受講すると、「アクチュアリー正会員」に認定されます。 まず、1次試験の基礎科目5科目(数学、生保数理、損保数理、年金数理、会計・経済・投資理論)にすべて合格すると、「準会員」となります。続いて2次試験で「生保」「損保」「年金」の3コースから1つのコースを選択し、2科目に合格することが必要です。
1科目あたり合格までの学習時間は200時間が目安と言われていることからも、アクチュアリー正会員の資格取得にはコツコツ勉強することが必要といえます。そのため、新卒入社の時点では特に資格取得や科目合格は義務付けず「アクチュアリー候補」として採用し、社内でアクチュアリー業務に携わりながら資格試験合格のためのサポートを行う企業が大半です。
安定した資格でありながらも、先進的なフィールドへ挑戦できる
保険会社で設置が必要な保険計理人や、企業年金の年金数理に関する書類に署名する年金数理人など、アクチュアリー正会員であることが資格要件の1つである職務もあります。そういう意味では、アクチュアリーは法令等で求められる資格なのです。そのため、今後も長く世の中に必要とされる仕事といえるでしょう。
一方で、伝統的なアクチュアリー業務だけではなく、ビジネス環境の変化やテクノロジーの発展などにより、活躍の場はさらに広がっています。広く世の中に認められる安定した資格でありながらも、新たなフィールドにチャレンジできる稀有な仕事です。理系の素養を活かしたいという方は、ぜひチャレンジしてください。
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