高い付加価値を持つ高機能素材・高機能材料へのシフトが進む化学業界

石油や天然ガスから化学製品を作り出す

化学業界の企業の多くは、石油や天然ガスを原材料に多彩な製品を作り出しているため、業界全体や手がける事業そのものを「石油化学」と呼ぶこともあり、原料となる石油の価格が業績に大きな影響を与える傾向があります。

化学業界の企業は3つに大別されます。原油・天然ガスからエチレン、ナフサ、エタン、プロピレンといった基礎製品（汎用品）メーカー、それらの基礎製品を原料としてプラスチックや合成繊維、合成ゴムといった中間製品メーカー、さらには中間製品から石鹸、洗剤、フィルム、接着剤、塗料といったさまざまな最終製品メーカーがあります。ここでは主に基礎製品と中間製品を作る化学メーカーを紹介します。

国内主要化学メーカーの特徴と注力分野

基礎製品から中間製品、最終製品まで一貫生産を行う企業は総合化学メーカーと呼ばれています。

2017年に三菱化学、三菱レイヨン、三菱樹脂の３社統合により設立された三菱ケミカルおよび三菱ケミカルホールディングスは国内トップの売上高を誇ります。基礎製品から各種機能材料まで幅広い製品を扱っていますが、とくに食品・医療品向けのラベルやフィルム、自動車や航空機用の高機能ポリマーなどに強みを持っています。

住友化学は農薬の売上で国内トップを走ります。ポリエチレンなどの合成樹脂、合成繊維原料といった石油化学製品を主力事業とし、シンガポールやサウジアラビアなどへの海外進出も活発です。また、近年は電子材料にも注力しています。

ポリプロピレンで国内首位の売上を誇る三井化学は自動車用樹脂、メガネレンズ材料、不織布などの高機能材料分野を拡大しています。もともと窒素肥料を事業の中心に据えていた信越化学工業は業態を転換し、現在では塩化ビニル樹脂や半導体シリコーンウェハーの分野で世界トップクラスの企業となっています。

「サランラップ」などの最終製品で知られる旭化成は、石油化学製品や繊維、高機能樹脂、電池材料、医薬品、さらには住宅・建材など非常に幅広い事業領域を持っています。

基礎製品の生産拠点を停止・再編し、高機能素材・材料の開発に注力

近年では、中国や中東でエチレンを中心とした基礎製品や中間製品を生産するプラントの建造が相次いでおり、これらの地域からの輸出量が伸びることが予想されています。当然、価格競争による利益率低下が避けられないため、三菱ケミカルホールディングスなどの総合化学メーカーを中心にエチレンの設備を停止し、汎用品分野と言われる基礎製品の生産拠点再編を進めています。

その一方で総合化学メーカー各社が注力しているのが高い付加価値を持つ「高機能素材・高機能材料」の開発や多品種少量生産体制の構築です。自動車の軽量素材、リチウムイオン電池、有機ELの材料などが代表的で、電気自動車（EV）の普及や新興国の生活水準向上を考えても将来的にわたってニーズが拡大し続けると予想されるため、各社は積極的な設備投資を行っています。三菱ケミカルと宇部興産は2020年度にリチウムイオン二次電池用電解液事業を統合して世界トップシェア獲得を目指しており、住友化学や旭化成もリチウムイオン電池用セパレーターの生産能力増強を図っています。

化学メーカーで求められる理系の専攻・スキル・知識

化学メーカーでは基礎研究や応用研究、商品開発、生産技術研究などの研究職をはじめ、生産管理・生産技術、プラントエンジニア、品質保証、知的財産、購買・調達、技術営業など、多様な職種で理系人材が求められています。化学系専攻の学生はもちろんですが、工場の設計を行うプラントエンジニアや工場や設備の維持・管理・補修を手がける設備管理系の職種では機械、電機・電子系専攻の学生を採用しています。

また、工場の生産性向上や安全操業を実現するためのビッグデータ解析やIoT、AIの導入を進めている化学メーカーも増えているため、情報系を専攻している学生へのニーズも高まっています。さらに技術営業、生産技術、品質管理といった職種では専攻を問わずに理系学生を歓迎しているメーカーもあります。