「女性の活躍」「ダイバーシティの推進」といった言葉をニュースなどで耳にすることが多くなりました。少子高齢化による労働人口の減少、グローバル化の進行など、日本経済はビジネス環境の大きな変化に直面しており、旧来の考え方や組織体制で企業が戦い続けることは難しくなってきています。この問題を解決する一つのカギとなるのは、多様な人材を登用するダイバーシティの推進、中でも女性の活躍なのです。
政府も「女性の活躍」を日本経済における成長戦略の重要なテーマと考え、経済界を後押ししており、これを受けて女性の採用・登用を積極化する企業は増加傾向にあります。中でも理系人材が多く活躍しているメーカー、IT、インフラ、建築といった業界はもともと男性社員の比率が高いこともあって女性が働きやすい制度改善や環境整備に力を入れている企業が増えています。理系女性にとっては多様なキャリアを選択できるチャンスが広がっているといえるでしょう。
【図1】国別の女性管理職比率
参照Women in business and management: gaining momentum / International Labour Organization(2018)
1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから女性の活躍の場は増えてきたとはいえ、現在でも社員・役職者の女性比率は均等とは言い難いのが実情でした。日本において管理職に就く女性の比率は海外と比較しても低く、欧米が3~4割なのに対して日本は1割程度に過ぎません。【図1・2】
しかし、その流れは大きく変わろうとしています。多くの企業が女性の活躍を明言し、管理職の女性比率・人数を目標設定するなど積極的に女性を登用する動きがいよいよ本格化しています。「女性の活躍」における明確な目標を掲げるだけでなく、本腰を入れて社内の環境整備や次世代のリーダー候補育成に取り組む企業が増えているのです。【図3】
【図2】日本における上場企業の女性役員数、女性役員比率の推移
※役員数及び役員比率は、各年の7月31日時点の値。 出典東洋経済新報社「役員四季報」(2020年版)から引用。
【図3】女性管理職比率の目標値を掲げている企業の一例
日立製作所 | 女性リーダーの確保・育成 日立グループの女性部長相当職以上を対象とした「日立グループ女性リーダーミーティング」、産休前・復職支援セミナー、若手女性向けキャリアセミナーなど、女性リーダーの育成に力を入れる。 |
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味の素株式会社 | どこでもオフィス 育児・介護等の事情がある社員が自宅やサテライトオフィスなどで働ける制度。従来からテレワーク制度はあったものの利用条件を大幅に緩和。自然災害時の利用も推奨していたが、コロナ禍でも活用が進む。 |
アサヒビール | ウェルカムバック制度 勤続3年以上の従業員が結婚、妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤などの理由で退職した場合、規定の条件が満たされていれば再雇用を認める制度。 |
サイボウズ株式会社 | 子連れ出勤制度 「子どもの預け先が無い」といった問題解決のために開始された制度。チームの生産性を下げないなどのルールのもと運用されており、緊急時の受け皿として活用されている。 |
経済が右肩上がりの時代、「共通した属性の社員を集めて、同じ方向を向いて邁進していくのが効率的」と企業は考えていました。しかし、ビジネスの仕組みが複雑化し、消費者の志向が多様化する昨今においては、多様な価値観による発想力や変化に対する柔軟な対応力が企業には求められています。また、当然ですがマーケットにおけるユーザーの半数は女性。製品の企画・開発の場面などで、女性視点からの多様な発想・観点が不可欠といえるでしょう。実際、女性活用に積極的な企業ほど業績がいいというデータもあります。女性活躍に優れた企業(なでしこ銘柄)はTOPIX(東京証券取引所市場第一部に上場している株式全銘柄を対象とした株価指数)のパフォーマンスを上回っています。【図4】
今後も様々なフィールドで理系女性への期待が高まっていくでしょう。「この仕事は男性ばかりだから」「この業界は女性の働ける環境が整ってなさそう」といった先入観を持つことなく、興味を持った業界・企業について調べてみてください。きっと、新しいキャリアの可能性が拓けるはずです。
【図4】「なでしこ銘柄」選定企業の指数とTOPIXの比較
1.経済産業省及び東京証券取引所が共同企画で、女性活躍推進に優れた上場企業を業種ごとに「なでしこ銘柄」として毎年度選定・発表している。
2.平成30年度の「なでしこ銘柄」の先手企業42社について株価指数を試算。平成22年1月末の終値を100とした時の推移として、平成31年2月末までの数値をプロット。
出典平成30年度「なでしこ銘柄レポート」から抜粋。
女性活躍に力を入れている企業を、様々な角度から評価している認定制度やランキングがあります。女性が活躍できる企業を探したり、調べたりする際には、これらの認定制度やランキングをぜひチェックしてみてください!
経済産業省と東京証券取引所が共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定し、2012年より毎年発表しています。なでしこ銘柄は、東証全上場企業の中から業種ごとに、女性が働き続けるための環境整備を含め、女性人材の活用を積極的に進めている企業を紹介しています。「中長期の企業価値向上」を重視する投資家に対して、女性活躍推進に注力する上場企業を紹介し、さらなる投資を促すことで各社の取り組み促進を期待します。
ダイバーシティ経営によって企業価値向上を果たした企業を表彰しているのが、「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業大臣表彰)です。経済産業省が2012年から実施しており、ダイバーシティ経営推進に取り組む企業のすそ野拡大を目指し、ダイバーシティを経営成果に結びつけている企業の先進的な取組を広く紹介しています。さらに、より中長期的に企業価値を生み出し続ける取組としてステップアップするべく、「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業を「100選プライム」として選出しています。
くるみんマークは、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定をうけた証で、2020年8月末時点で、3,419社がくるみん認定を受けています。さらに、2015年4月より、くるみん認定を既に受けた企業のうち、特に両立支援の制度の導入や利用が進み、高い水準の子育て支援に関する取組を行っている企業を評価する『プラチナくるみん認定』がはじまりました。2020年8月末時点で、392社がプラチナくるみん認定を受けています。
2016年に施行された女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)に関して、行動計画の策定および策定した旨の届出を行った企業のうち、一定の基準を満たした優良企業は厚生労働省から「えるぼし」認定が受けられます。えるぼし認定における評価基準は、女性社員の平均勤続年数の長さ、管理職の割合、多様なキャリアコースの有無などがあり、認定企業は女性が活躍しやすい環境づくりに積極的な企業といえます。
「女性がキャリアを考える際に意識すべきことは?」「出産や育児をしながら働き続けられる会社はどうやって見つければいい?」「女性にとっていい会社ってどんな会社?」本格的に就職活動が始まる前に、皆さんが考えておくべきことや知っておくべきことは少なくありません。このページでは、理系女性がキャリアや仕事について抱く疑問についてお答えします。
出産や育児に関する制度の有無や充実度を重視して企業をチェックしている女子学生は多いですが、それだけでは十分とは言えません。そもそも、企業によって休暇を取得できる期間の違いはありますが、出産・育児休暇はすべての企業に法律で義務付けられています。
それよりも重要なのは、その企業内で制度がどれくらい活用されているかという実態です。せっかく制度が整えられていても、実際に利用している社員がいなければ意味がありません。出産・育児休暇を取得後に復帰して活躍している女性の人数・比率や具体的なエピソードまで聞くことができれば、その会社で働くイメージが見えてくるはずです。
混同しやすいのですが、女性が“活躍できる会社”と“働きやすい会社”がイコールとは限りません。女性にとって居心地は良いものの任される仕事は補助的な業務が多いという企業もありますし、その一方で仕事はハードながらも評価に関しては全く平等という企業もあります。あなたがビジネスパーソンとしてキャリアをしっかり歩んでいきたいのであれば、「性別にかかわらず重要な仕事を任せてもらえるか」「責任あるポジションに女性が登用されているか」といった実態をしっかり見極める必要があります。女性の活躍の度合はデータだけでは見えてこない部分も少なくないので、OG訪問をするなどして、先輩女性社員の話を聞くことをおすすめします。
結婚、出産、育児など女性には様々なライフイベントがありますが、いずれも不確定な要素が大きいことも事実です。例えば結婚は良いパートナーと出会えるかだけでなく、生活スタイルや価値観を共有できなければ、家庭に入ることは難しくなります。さらに近年では雇用の流動性が増しておりパートナーの雇用が一生安定しているとも限りません。ですから、女性自身もキャリアをしっかり考えることは欠かせません。自分自身のキャリアや仕事としっかり向き合うことが、将来の可能性を広げることにつながるはずです。
女性はライフイベントによって仕事に割ける時間が少なくなる可能性があります。ですからキャリアを築いていくうえで、なるべく早い段階で仕事の基盤を作り、実績を残すことが重要といえます。とにかく目の前の仕事にしっかり取り組み、一定の評価を得て、会社や組織にとって価値のある人材になることで、その後のキャリアの選択肢は増えるはずです。ワーキングマザーの多くは産休復帰後に「仕事の効率を強く意識するようになった」と話します。「限られた時間でいかにして成果を上げるのか」を強く意識して仕事に取り組んでいるのですが、休暇取得の前に仕事の基盤を作っていなければこれを実行するのは難しいでしょう。
女性だけに限ったことではないのですが、自分はどんな人生を歩みたいのかを真剣に考えることが欠かせません。「グローバルに活躍できるプロフェッショナルを目指す」「地元でワークライフバランスを重視して過ごす」など生き方は十人十色、正解はありません。しっかり自分自身と向き合い、その目的を実現できそうな環境を見つけてください。
とはいえ、将来像を明確に描けない方も少なくないでしょう。そんな場合はできるだけ社員と肌の合う会社、女性が活躍している会社を選ぶことで将来の選択肢を増やすことができるでしょう。実際に働き始めてから仕事や生き方に対する考えが変わっていくのはごく自然なことです。社会に出ていろんな人や価値観と触れ合う中で目指すべき姿を見つけてください。
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