弁理士

近年、知的財産や特許に対する関心が高まり続けている。メーカー各社がグローバルマーケットにおいて存在感を発揮し、成長を持続していくためには自社が有する知的財産を適切な手法で管理することが求められているのだ。このページで紹介 するのは知的財産・特許のスペシャリスト「弁理士」。理系の専門性を深めながら活躍できる国家資格の仕事の魅力を紹介する。


発明品を抽象化し、特許技術を見極める

弁理士の仕事

日本国内の市場が縮小する中、国内メーカーの多くは海外戦略を強化しています。グローバル展開に伴い、海外の進出地域における特許申請や知的財産権の保護はメーカーにとって急務となっているのです。最近は大手だけでなく中小企業からの相談や依頼も増えて いますね。
弁理士の主なミッションは、そのようなメーカーをクライアントとした特許申請に関する調査および申請書類作成などです。もう少し詳しくお話しすると、特許を取得するには「新規性があること」「産業上利用できること」などいくつかの条件をクリアしなければなりません。これらの条件に適合しているか、過去の特許申請と重複していないか、といったことを調査し、申請書類を作成するのです。
調査の過程で発明者から特許の詳細を直接ヒアリングすることもあります。発明品は具体的な製品で持ち込まれることが多いので、そこから「特許の核となるものは何か」の見極めが求められます。わかりやすい例を挙げると、「消せるボールペン」を発明した場合、その特許技術の核は「ボールペン」にあるのか「インク」にあるのかを判断する必要があります。この判断によって権利の範囲が大きく変わってくることもありますので、「具体的な発明品をいかに抽象化するか」が弁理士の腕の見せ所とも言えるでしょう。

理系としての幅広い知識が活きる仕事

平成22年度合格者の出身系統

弁理士には理系全般の幅広い知識が求められますが、最初からすべての分野において深い専門性を持つことは現実的ではありません。大学での深い専門性というよりも、高校時代からの物理や数学といった基礎的な理系の知識も重要です。そもそも「発明」はこれまで世の中になかったものなのですから知らなくて当然。社会人になってから実務を通じて得意領域を増やしていくことも必要となりますし、理系としての基礎さえしっかり理解していれば、各分野を掘り下げていくことはそれほど難しくないでしょう。とはいえ、世の中に求められている分野やニッチな分野を大学で専攻している理系であれば、弁理士としての強い武器になるはずです。
弁理士にとって重要な能力を挙げるとすれば、「発明を理解する力」「発明を抽象化する力」でしょうか。それを支えるのは理系全般の知識(原理を理解するための知識)や論理的思考力です。あとは文章力。申請書類などで文章を書くことも多いのですが、理系出身者は文章を書くのが苦手な方が多いのでわかりやすい文を書くためのトレーニングは必要かもしれませんね。英語力はもちろん必須です。海外の弁理士とのやり取りが多いのですが、どこの国の弁理士でもたいてい英語は話せます。欲を言えばアジア圏など、新興国の言語を 第二外国語として使えると仕事の幅が広がります。

難易度は高いが、努力次第で一発合格も可能

試験日程のイメージ

弁理士試験の合格率8・3%、平均受験回数4・5回という数字だけ見ると難易度は高そうですが、学生時代のうちに集中的に試験対策を行い、一発で合格している方も少なくありません。学生時代に試験を受けるメリットは、社会人と比較して勉強の時間を確保しやすいという点です。また論文試験の選択科目では大学で勉強した内容をそのまま活かせるというのも大きなメリットです。 一度で合格できるのがもちろんベストですが、一次試験(短答式筆記試験)に合格しておけば以降2年間は一次試験が免除になり、翌年受験する際の負担が減ります。

弁理士試験合格後に実務修習があります。ここで弁理士になるために必要な技能および専門的応用能力を習得するための実務修習を受講し、すべての課程を修了することで日本弁理士会の弁理士名簿に登録をすることができます。弁理士の主な活躍フィールドとしては特許事務所、メーカーの知的財産部門、独立開業などがあります。

知識とともに広がる活躍フィールド

今の時代、弁理士に限らず知的財産の知識は必要です。開発職であれ、研究職であれ知的財産の知識があれば仕事の幅は広がる でしょう。何らかの形でものづくりに関わりたいと考えているのであれば、時間を確保しやすい学生時代に弁理士の勉強をしておくことをお勧めします。就職活動においても、知的財産の知識を有する学生をメーカーは歓迎しており、その知識は自分の武器になるはずです。
弁理士は自身の知識・スキルを高めることで活躍フィールドが広がる仕事。営業のうまさではなく、成果を出せば仕事がついてくるというのが弁理士の醍醐味だと思います。日々、新しい知識の吸収を楽しめる方、様々なことに関心を持って向き合える方にはとてもお勧めの仕事といえるでしょう。