デジタルトランスフォーメーション(DX)があらゆる業界で叫ばれる昨今、AI活用は業界を超えた社会的なテーマだ。そんな中、AI人材を数多く擁し、様々な企業のデジタル変革を支援してきた電通国際情報サービス(以下ISID)は、全社横断組織「AIトランスフォーメーションセンター」を新設。同センターで文書管理AIソリューションを開発した技術リーダーのファイサル氏に、プロジェクトの裏側やAIエンジニアに必要な素養について伺った。《理系ナビ20冬号 掲載記事》
2020年、ISIDは企業のAI活用によるDX推進を支援するため、全社横断のAI専門家組織である「AIトランスフォーメーションセンター(以下AITC)」を設立しました。
ISIDは、金融機関や製造業の特定領域向けに先駆けて提供してきたAIソリューションや深層学習などの技術と知見をAITCに集約し、これを全社ビジネスに横展開していくことで、幅広い業種業態のお客様の新規事業創出やDXの取り組みを支援しています。特に業界を超えてニーズが多い課題に対しては、より多くのクライアントへスピーディに、確実に価値を提供できるよう、AITC内でAI製品開発を行っています。2020年4月には、「TexAIntelligence/テクサインテリジェンス」「OpTApf/オプタピーエフ」「DiCA/ディーカ」という3つのAI製品を同時にリリースしています。
私が技術リーダーとして開発に携わった文書活用AIソリューション「TexAIntelligence/テクサインテリジェンス」は、企業で大量に保持されている文書を、より賢く有効に活用したいというニーズの高さから製品化したものです。
多くの企業では、例えば顧客からの問い合わせやアンケート回答情報、蓄積された技術文書、帳票類など、潜在的なビジネス価値がありながらも活用されていない膨大なテキストデータを持っています。私たちはこのテキストデータと文書AI技術を組み合わせ、文章の意味的類似検索、分類、要約を高速かつ自動化するAIソリューションとして「TexAIntelligence」を開発しました。これは従来のキーワード検索システムとは全く異なる特徴を備えています。例えば、「会社をクビになった」と「会社で問題を起こし、解雇された」という2つの文章は、表現は違いますが同じ意味を持つ文章です。従来の手法ではこのような違いを持つ文章を、同じ意味の文章として判定することは困難でした。しかし、私たちが開発したAIソリューションは最先端のAIアルゴリズムによって、使う言葉が違っても文書をインプットとして過去の類似文章を探し、判断することを可能にしました。
私の強みは、世の中に溢れる様々なプラットフォームやライブラリを適切に組み合わせて最も使いやすいシステムを設計するアーキテクチャ力です。
「TexAIntelligence」には、品質やスケーラビリティを考慮してMicrosoft Azureの環境を選択しました。また、日本語の文章の区切りを作るためのトークナイザ(形態素解析)などについてもオープンソースのコンポーネントを組み合わせて構築しました。オープンソースのソフトウェアは無数にあり選択肢はほぼ無限にありますが、膨大な数の論文にあたり、そこで利用されているソフトウェアを調査して技術を選定します。基本的にどのソフトウェアが最適かは実装してみないと分からないので、コーディングして品質を確認するというサイクルを高速で回しています。日頃から多くの論文(英語)を読み、技術動向や実装例等をチェックしておくことが力になります。
テキストデータと先進の文章AIを組み合せて、新たな付加価値創造を支援するソリューション、TexAIntelligence(テクサインテリジェンス)
私は以前、社内で自然言語処理の研究開発に従事していたこともありますが、当時と比較すると、現在は自分の開発した製品で多くのクライアントを支援していることにやりがいを感じています。また、AIの技術や知見に加え、システム面のスキルやビジネススキル等を幅広く習得できる点も、現職における魅力のひとつです。
私たちAIエンジニアに求められるミッションは、専門的な知識を持ち、それをフル活用してビジネス課題を解決する優れたAIモデルを構築することです。しかし、単に精度の高いモデルを作っただけでは、実際のビジネスに貢献することは難しい。構築した高品質なAIモデルを現場で運用することができて初めて価値が生まれます。そのためには、私たちエンジニアが単にAIに詳しいだけでなく、クラウドやビッグデータなど専門分野を超えた知識も持つ必要がありますし、システム的な観点やクライアントに「提案するスキル」も必要です。またリアルな現場に出て課題を解決しようと思えば、プロジェクトを立ち上げ、マネジメントするスキルを求められる場面も出てきます。つまりこれからのAIエンジニアにとって重要なことは、自分の強みを持ちながら同時にフルスタックを目指していくことです。AIの必要性が増す中、AIエンジニアやデータサイエンティストのニーズは間違いなく高まっていますが、一方で自分の専門分野のことしか分からないエンジニアの価値は次第に低下していくと思います。
とはいえ、学生時代に高度なシステム開発などの知識や経験を得ることは難しいと思います。将来に向けて興味関心を育てつつ、まずは今学んでいること、数学やプログラミング等にしっかりと向き合い学ぶ習慣を身につけてください。社会人になってからもその習慣を続け、新しいことを積極的に学び、使いこなしてほしいです。
ファイサル ハディプトラ
株式会社電通国際情報サービス(2024年1月に株式会社電通総研に社名変更) Xイノベーション本部 戦略テクノロジー室
AIテクノロジー部 先端AIグループ 兼 AIトランスフォーメーションセンター
Institut Teknologi Bandung Infomatics Software Engineering 卒
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