発電所や工場の建設で必要になる設備は、数十メートル級、重さにして百トン、千トン単位になる。それら重量品を運ぶ際、普通のトラックでは運べず専門家の手によって運搬されるのだが、日本における重量品輸送のトッププレイヤーとして、「引越しは日通」のテレビCMでおなじみの日本通運株式会社が活躍をしていることをご存知だろうか。「輸送」と「理系」のイメージはなかなか結び付かないかもしれないが、重量品輸送を担当する日本通運の重機建設事業部の多くの社員が理系出身である。では、理系の頭脳はどんな業務で活かされているのだろうか。
運送計画の立案から現地での据え付け業務まで
巨大かつ超重量なモノを運ぶには、専用の車両を使い、歩道橋・信号機などの障害物を避けるための事前のルート計画が必要になる。日通の重機建設事業部は、そんな重量物の輸送から建設まで行うプロ集団。重量品を現地まで運び、据え付けまでを担当している。
重機建設事業部はクライアントからの依頼を受けると、まずは運搬経路の調査を実施する。道路の幅は十分か、歩道橋や信号機などにぶつけないか、最短かつ極力障害物の少ない輸送ルートを割り出し、依頼主に説明、そして見積もりを提出。正式に受注した後は、より詳細に輸送プランを詰めていく。
詳細な計画を立てるフェーズでは、輸送経路上の交差点およびカーブ箇所等の通行可否を判断する為、車両の軌跡検討を行う。場合によっては道路測量を行うことも。また、輸送経路上に橋がある場合は、その上を車両が通っても大丈夫か、強度計算も行う。
そうした調査・計画立案を終えた後、道路管理者や警察署に通行許可を申請。さらに輸送後の据え付け場所も事前に調べておく。どんな手順で進めれば安全かつスムーズに輸送できるのか、入念に検討することが不可欠だ。以上の工程を終え、計画を実行段階に移す。
測量、強度計算から専用車両に関する機械系の知識まで必要
重量品輸送の業務の中で、理系としての強みはどう活かせるのだろうか。日通の重機建設事業部で風力担当の課長を務める前川裕道氏によると、同事業部の多くは理系出身。輸送ルートの測量ならびに軌跡検討や、輸送後の現地での据え付け作業に使う機材の耐久性の強度計算、測量結果の図面化や図面からの据え付け作業の計画立案といった業務で理系の専門性が活きるという。
建設・土木系の出身者が多いが、機械系出身者も多い。前川氏も機械系の専攻出身のため、「車両のメカニズムまたは油圧系統など機械系の知識を持っていれば、専用車両を使う際役立ちます」と語る。例えば風力発電で使う風車のブレードの長さは40メートルほど。ブレードを立てたり回転できる特殊なトレーラーを使う際、機械系の知識が必要になるという。
綿密に計画を立て、安全に遂行する
重量品輸送という仕事の面白さを前川氏に聞くと「お客さまの依頼が非常に難しい案件もあります。そこを何とか綿密に計画を練って、現場での計算違いの問題も解決し、最終的に事故もなく安全に輸送および据付作業を終えた時の達成感はこれ以上無いものがあります」という答えが返ってきた。
「失敗が許されない」というプレッシャーはあるが、計画を立てて手順通りに進め、ハプニングが起きたら解決策を見出して切り抜けていく。一連のプロセスは理系の実験などにも通じるところがあるのではないだろうか。
重量品輸送は日本全国が活躍の舞台。アジア中心に海外への展開も
重量品輸送の仕事は一つ一つがオーダーメード。一連のプロセスは同じだが、出発地や輸送経路の選択、現地での据え付け時の問題点など、ポイントはプロジェクトごとにまったく別物だ。そのため、重機建設事業部は世界中で活躍している。「依頼があれば全国各地に飛びます。私も福岡にある九州重機建設支店在籍時は、仕事場は福岡のみに留まりませんでした。また、数週間程度で現場は変わりますから、見識を広められます」
また、タイやシンガポールに重機の拠点があり、国内のみではなく海外の大型プロジェクトに携わる機会にも恵まれている。すべてが日本とは違う環境で、また新たなオーダーメードの仕事を進めていく楽しみもあるだろう。様々な環境に身を置きながら、新しいプロジェクトに挑戦し、自分を高めたいという理系人材には、絶好の職場になるはずだ。
【トレーラーの積載検討】
トレーラーに重量物を積載したときのタイヤに掛かる荷重(軸重)を計算により算出。道路に与える影響が大きい場合はタイヤ数(軸数)の多い車両を選定して路面を傷めない輸送を実現する。
【クレーンの脚に掛かる荷重検討】
クレーンで重量物を吊るときのクレーンの脚に掛かる荷重(反力)を計算により算出。クレーンを転倒させることのないよう最適な機種を選定して安全な作業を実現する。
【積載物の重心検討】
トレーラー輸送時、積載物の重心位置から勾配部での転倒に対する検討を実施。震災復興の現場でも、重心の高い船舶の安全な輸送に貢献する。
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