データサイエンティスト(株式会社ビービット)

「UXグロースハック(運用)」と「UXイノベーション(変革)」のワンストップ支援を手がけている株式会社ビービット。同社は徹底したユーザ中心主義のマーケティング戦略や顧客ロイヤルティのコンサルティングを通じ、数多くのクライアントのビジネスを成功へと導いてきた。今回、ビービットの技術を担うデータサイエンティスト小澤友美氏に、同社におけるデータサイエンティストの仕事について伺った。《理系ナビ19冬号 掲載記事》


人間の勘や経験では導き出せない知見を、データの力で抽出する

当社のデータサイエンティストは主にWebやアプリにおける一人ひとりのユーザ行動を観察できる「USERGRAM(ユーザグラム)」というサービスの機能開発などを担っています。PC・スマホ・アプリだけではなくリアルチャネルにおける行動までを計測し、行動の順序や流れに着目したデータ活用によってユーザの“状況”を捉える「デジタル行動観察ツール」USERGRAMは、現在のべ300社以上に利用されています。そこで集められたデータを分析しながら、人間の勘や経験からでは導き出せない知見を抽出し、様々な課題を抱えるクライアントにソリューションを提供していきます。それを実現するためにデータサイエンティストは、クライアントがユーザを理解し、新しいインサイトを発見できる機能をUSERGRAMに実装。また、単純なデータ解析だけでなく、集まったデータを処理する仕組みや分析結果をリアルタイムでクライアントに共有できる仕組みなども構築し、課題解決を支援します。

ビービットのデータサイエンティストの具体的な仕事内容を「エンドユーザの行動分析」を例にお伝えしましょう。まずは、クライアントが持つデータを理解するために、データの集計や基礎分析を行います。そして、ユーザが閲覧しているWebページのタイトルや行動している時間帯などを調べながら、それらをもとにユーザを分類。その後、分類されたユーザの中で、どのグループがクライアントの商品を購入しやすいか、といったデータ分析をしていきます。


機械学習モデルを使って、精度の高い予測を可能に

次に、データサイエンティストが携わった具体的なプロジェクト事例を紹介します。以前、健康食品事業を手がける大手クライアントと共に「定期購入されている商品をどのユーザが解約するのか?」を予測するプロジェクトを立ち上げました。そこで、解約したユーザのWeb上の行動を基礎統計から始め、2ヶ月かけて分析し、定期購入を継続しているユーザと比較。解約につながりそうなお問い合わせページなどをピックアップし、ページを訪問した人/しない人で解約数に違いがあるのかなど徹底的に検証しました。

さらに1,000以上にものぼるWebページを抽出し、ユーザがどれだけ訪問するか、滞在時間などを集計しながら、解約有無の訓練データを用意。そのデータを使って機械学習モデルを訓練し、どの程度の精度で解約を予測できるかを調べました。設定した基準を超える精度で予測を行うことができ、その結果をレポートにまとめ、クライアントに報告。最終的に、さらに予測の精度を高めるためにはWeb上だけでなくいつメルマガを配信したのかなど、クライアントが持つデータと組み合わせることが必要という結論に達しました。

株式会社ビービット


学生の内から、できるだけ多くのスキルを手に入れてほしい

データサイエンティストには、もちろん理論などのデータサイエンス力が必要ですが、ソフトウェアの知識・スキルも求められます。常にきれいなデータを分析できるわけではなく、膨大な量のデータを分析するためには前処理が必要です。そのため、データリソースからデータを取得する仕組みなどを構築できる、ソフトウェアを使う技術とコーディングの技術を持った人が重宝されます。最近は学習コストも下がっているので、オンライン講座などを活用しながら、学生のうちに即戦力となる知識やスキルを積極的に培ってほしいです。

一度社会に出てしまうと、新たな学びのためにまとまった時間を割くのが難しくなります。だからこそ、理論を体系的に学んだり、物事を突き詰めたり、学生として研究に打ち込める今の時間を大切にしてほしいですね。その経験が、仕事をするうえで重要な「情報を取捨選択しながら理解する」土台を作ってくれます。

また、クライアントにソリューションを提案する場合など、レポートを提出したり、プレゼンテーションしたりする機会も多々あります。研究などを通して得た「ロジカルに説明する能力」は存分に活かせると思います。また、仕事に関わる中で、今まで経験してこなかったことに取り組むことも多くあります。研究を粘り強くやってきた人であれば、そうしたことも着実に前に進められるでしょう。

最後にお話ししておきたいのは、データサイエンスは「社会の課題をデータの力でどう解決するか」という分野だということ。学生のみなさんが研究しているテーマが、「社会とどんな繋がりがあり、どう役立てることができるのか」それを今一度よく考えて、目の前の研究に取り組んでほしいですね。


PROFILE

小澤友美、西岡賢一郎

[左]小澤友美(おざわ・ともみ)
株式会社ビービット
データサイエンティスト
東北大学大学院 理学研究科 数学専攻 博士(理学)

[右]西岡賢一郎(にしおか・けんいちろう)
株式会社ビービット
取締役 CTO ※小澤氏の上司
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士(学術)