ディープラーニング(株式会社ABEJA)

今、注目が集まっているディープラーニング技術。工場業務の自動化や、小売流通店舗の店舗解析、コールセンター業務の効率化など、様々な産業で活用されはじめている。先端的な技術を備えたAIスタートアップの活躍も目立っているが、その中でも、製造・小売流通などの大企業をはじめ、既に150社の企業との取引実績を築いているのが、株式会社ABEJAだ。同社執行役員の菊池氏に、実際のプロジェクト事例、そしてディープラーニングエンジニアに求められるスキルや視点を伺った。《理系ナビ19夏号 掲載記事》


AIによる社会課題解決、そしてAIの民主化に取り組む

ABEJAは創業7年間で、150社以上のディープラーニング活用をサポートしてきました。高度な専門性を持つディープラーニングエンジニアが活躍していますが、私たちが取り組んでいるのは技術の提供というよりは、「社会課題の解決」。たとえば日本の労働人口は減少の一途を辿っており、このままでは企業の生産性が著しく低下してしまいます。そうした課題を解決すべく、当社はAIを活用してクライアント企業における生産性の担保、そしてさらなる向上を共に目指しています。

製品として提供しているのは、顧客ごとの要件に合わせてカスタマイズできるAIの開発・運用に必要不可欠なプロセスを最小化し、AIのビジネス実装を加速させるPaaS「ABEJA Platform」と、小売流通業界に特化した店舗解析SaaS「ABEJA Insight for Retail」です。この両製品によって、ABEJAはあらゆる人がAIを気軽に使える「AIの民主化」を推進しています。そして、ディープラーニングエンジニアは各製品にコミットし、AIに必要なデータの収集と教師データ作成、モデル化、実行をする基盤の開発を担っています。


AIが熟練者のように不良品を検出する、検品自動化プロジェクト

ABEJAのオフィス風景

ABEJAのオフィス風景

ABEJAは、製造・物流・小売流通業界をはじめ、あらゆる産業に、サービスを提供しています。その中でも製造業は労働力減少が顕著に見られるため、AI活用の取り組みに積極的です。その代表的な事例として、自動車のギヤやエンジン部品を製造する武蔵精密工業株式会社様との、「ディープラーニング技術による最終検査の自動化」を紹介します。 同社は工場の自動化に早くから取り組んでいますが、課題として立ちはだかっていたのが最終検査作業でした。この工程は熟練者が目視で行っていました。しかし、熟練度により精度にバラつきがあり、かつ作業工数の大きな工程であることが課題でした。そこで、検品自動化プロジェクトがスタートしたのです。

具体的には、検査する製品の画像・動画を撮影し、そのデータをディープラーニング技術によりリアルタイムで解析し、良品・不良品を判定するモデルを構築しました。ここで重要なポイントとなるのが、撮影データのコンディションです。AIは非常に繊細なものですから、照明の当たる角度が少し変わるだけで画像解析の結果は変わってしまいます。そのため、常に同じ条件で製品画像を捉えるための工夫が必要でした。そこで武蔵精密工業様の協力のもと、ボックスの中に複数のカメラを設置し、そこにロボットアームで一つひとつ製品を入れ、撮影する検査ラインを作りました。また、検査を行うボックスにはNVIDIAのチップを備え付け、ネットワークを通してリアルタイムでAIのモデルをアップデートできるようにしました。つまり、常に最新のモデルで検品ができるということです。

実証実験の段階で、不良品の98%を検出という高い精度を出せましたが、実際の製造ラインに組み込むには、より精度の向上が必要です。しかし、100%の検査精度を目指すことがゴールではありません。不良品が発生する原因を根絶するような仕組みを、AIを活用して作っていくことが必要です。工場の生産ライン全体を俯瞰し、AIをどう活用していくのか、引き続き取り組みを続けていきます。


海外に目を向け、AIの最新情報をキャッチアップする

ディープラーニングエンジニアとして活躍するには、「AIの実装技術」が必要です。しかし、それだけでは十分ではありません。なぜなら、技術はあくまで課題解決の手段にすぎないからです。お客様の要望を聞き、それをAIで解決すべき課題とそうではない課題に仕分け、提案に落とし込む。そうした「コンサルティングスキル」は、大きな武器となります。 もちろん、これは社会に出てからも身に付けられます。しかし大学で研究するテーマや技術も、必ず何かしらの社会課題に結びついているはず。「自分が研究している技術は、どんな課題を解決できるのか」など、本質を考える視点を養うよう意識してみてください。

また、学生の方にぜひ伝えたいのが、外に目を向けてほしいということです。残念ながら日本は、アメリカ・中国・イスラエルのようなAI先進国ではありません。海外の論文に目を通している方も多いと思いますが、学術的な情報だけではなく、その技術がビジネスや社会課題にどう適用されているのかも、積極的に捉えていただきたいと思います。そして可能であれば、現地に足を運んでみてください。たとえばシアトルの「Amazon Go」に行き、その裏側にはどんな技術が動いているのか、予想したり調べたりしてみるだけでも、得られるものは大きいと思います。


PROFILE

菊池佑太

菊池佑太(きくち・ゆうた)
株式会社ABEJA 執行役員/ABEJA Platform事業責任者
株式会社CA ABEJA 副社長