データサイエンティスト(HEROZ株式会社)

「AI革命を起こし、未来を創っていく」というビジョンを掲げるHEROZ株式会社。将棋AIの研究開発で培ったコア技術を基盤とするAIサービス「HEROZ Kishin」を進化させることで、金融、建設、エンターテインメントを中心とした幅広い産業の多様な課題に対してソリューションを提供している。同社で金融領域のデータサイエンスに携わる棚橋氏に、担当プロジェクト事例やデータサイエンティストの仕事について詳しく伺った。《理系ナビ19夏号 掲載記事》


各業界に精通したデータサイエンティストが多数在籍

当社は、「HEROZ Kishin」というAIサービスを軸に、金融、建設、エンタメ業界に対するBtoB領域のサービスに加え、将棋や囲碁、チェスなど、頭脳ゲームアプリを中心としたBtoC領域のサービスも提供しています。私は2017年の入社以来、現在まで一貫して金融領域のデータサイエンスを担当しており、金融市場・株式市場の市場予測、予測のためのモデル構築を最大のミッションとして仕事に取り組んできました。また当社では金融業界向け以外でも、様々なプロジェクトが動いているので、プロジェクトごとに各業界・業務に関する高度な知見を持ったデータサイエンティストたちが活躍しています。技術勉強会などを通して情報を共有し合っていますし、優秀な技術者も多いので、良い刺激を受けながら日々業務に取り組んでいます。


AIを活用した日本初の個人向け株式提案サービスを開発

ディープラーニングを用いた予測モデル(最新AIモデル)

2019年3月に、SMBC日興証券様の個人投資家向けの投資情報サービス「AI株式ポートフォリオ診断」の提供が開始されました。私はこのサービスの予測モデルの構築を担当しています。「AI株式ポートフォリオ診断」は、個人投資家の方に対して新規ポートフォリオや保有するポートフォリオのリバランスのための情報を提供するものです。本サービスは、「AIを用いた個別株式のポートフォリオ提案」を行うサービスとしては日本初となるものであり、このたび特許を取得しました。

社内では予測モデルの構築を担当する私のほか、SMBC日興証券様とのビジネススキーム等の調整やプロジェクト管理を行うプロジェクトマネージャーのほか、サーバやAPI周りも含めたシステムへの実装を担当するエンジニアが数名、金融に関する高い知見を持ったCFOなども参加するプロジェクトチームで開発を進めました。私自身は株式市場に関する様々なデータやSMBC日興証券様から提供いただいたデータを活用することで、ディープラーニングなど様々なアプローチで予測モデルの構築を繰り返し、要所で実験なども行いながら精度を高めていきました。

このプロジェクトに限らない話ではありますが、株やFXに関する市場予測については、どれだけ精度を上げたとしても「100%当たる」モデルが構築できるわけではないので、リリース後も引き続き予測精度の向上に取り組んでいく方針です。

金融業界では、AIを活用した手法に限らず昔から世界中の人々が知略を駆使してデータを読み解く努力を繰り返してきましたが、未だに全貌を解明することができていません。「人が作ったものを人が解明できていない」ということに神秘性を感じますし、そうした領域にデータサイエンスを駆使してチャレンジする事に魅力を感じています。


データサイエンティストはコンサルタントに近い仕事

金融領域には「整ったデータ」が存在していると思われがちですが、実際のデータは完璧ではありません。データが抜け落ちていたり、間違っていたりするケースも多いため、データ分析の前工程にも相応の時間がかかります。また、そうしたデータを適切に読み解き、処理するためには金融知識が欠かせません。データサイエンティストといってもデータ分析や機械学習の知識だけがあればいいというわけではなく、データ収集・クレンジングを行う前工程はもとより、モデル構築に関しても必要な変数と意味のない変数を判断する能力が求められるなど、それぞれの領域に応じた業界・業務の知識が不可欠なのです。

私の感覚としては、データサイエンティストはプログラマよりもコンサルタントに近い職種であり、統計の知識を駆使して「このデータを使って何ができるのか」という提案をすることで、ビジネスを動かせる部分にやりがいや面白さがあると感じています。


今後は業界・業種に特化したデータサイエンティストが求められる

データサイエンスの現場を経験してきた私の見解としては、データサイエンティストの中でも今後は業界・業種に特化した人材がより求められるようになると思います。そのため、学生の皆さんは今のうちから得意なデータのジャンルを見つけておくと良いでしょう。ゲームやスポーツといった、興味ベースでも構いません。また、プログラミングはほぼ必須であり、スクリプト系言語とコンパイラ系言語を1つずつ学んでおけば、幅広い案件に対応できると思います。スクリプト系は流行りのPythonでもいいでしょう。プログラミング言語の世界は流行り廃りが激しいですが、この2種類を覚えておけば、新たなプログラミング言語もすぐに習得できるようになります。


PROFILE

棚橋 誠

棚橋 誠(たなはし・まこと)
HEROZ株式会社
エンジニア/博士(工学)
横浜国立大学大学院 工学府 物理情報工学専攻
電気電子ネットワークコース 博士課程後期 修了