CRO(医薬品開発業務受託機関)業界

さまざまな分野の理系人材が活躍するCRO業界

“医薬品”と聞くと、「薬学や医学専攻の人しか関われないのでは」と思われる方もいるかもしれません。しかし、実はCRO業界で働く人の約半数は、薬学部・医学部以外の専攻出身者です。

CRO業界においてもさまざまな職種があり、情報工学、物理、統計学、数学、農学、生物学、化学、獣医学…といった理系全般分野の専門性や知識が活かせる場があります。統計解析やシステム開発といった業務は、情報工学や統計学、数学等の知識が必要なため、それらに関連する専攻の出身者が活躍しています。

ここでは、CRO業界で新卒採用をしている主な4つの職種について、またどんな専攻出身者が活躍しているかをご紹介します。

●臨床開発モニタリング

治験の実施に関して、治験依頼者と治験に関わる医師や実施医療機関関係者との情報交換を行い、臨床試験が「関連法規や実施計画書に従って実施・記録・報告されていること」「被験者さんの人権・安全・福祉が保護されていること」を保証する業務です。医師と面談し、臨床試験の目的やデザイン、方法、統計学的な考察、組織・責任体制を記載した実施計画書の説明を行います。また、臨床試験の進捗状況を調べ、症例報告書の記入依頼・回収・精査までを行います。コミュニケーション力、スケジューリング力と、ゆくゆくは薬品に関する諸知識が必要になります。

活躍している専攻薬学以外に、生物、化学、農学、物理、獣医学など理系全般


●データマネジメント

データマネジメント(各種症例データのクリーニング)
臨床試験により集積された症例データの入力・精査・修正を行い、データベース化していく一連の流れをマネジメントします。コミュニケーション力とゆくゆくは薬品に関する諸知識が必要になります。

活躍している専攻薬学以外には、生物、化学、農学、物理、獣医学など、理系全般。

データマネジメント(データマネジメントシステム開発)
データを入力するシステムの開発、運用。試験ごとに必要な入力項目やその形式など、カスタマイズする必要があり、ベースにはSASシステムが多く利用されます。情報工学等の知識も必要な業務です。

活躍している専攻情報工学系、数学など


●統計解析(生物統計)

生物統計学を用い、治験結果を解析。効果、安全性、副作用など、さまざまな観点から評価基準を数値化し、データを分析し、治験薬の有効性や安全性を統計学的に検証する業務です。統計解析計画の立案、解析計画書の作成、データ解析、解析報告書の作成を行い、最終的に数年かけた調査結果を公開する場に立ち合うこともあります。統計の知識や数学力が活かせる業務です。

活躍している専攻統計学、数学、物理、管理工学など


●臨床システム開発業務

臨床試験の現場である病院や製薬会社、モニタリング担当者をつなぐEDCシステム(※)などの臨床システムを開発・構築する業務です。臨床試験で得られるデータを効率的に、正確に収集するためのシステムづくりです。薬学等に加え、情報工学の知識も必要な業務です。

活躍している専攻情報工学系、数学など

※Electronic Data Captureシステムの略称で、治験実施時にデータ収集・管理を電子的に実施することを指します。パソコンで治験医師、または治験スタッフが症例データを登録し、そのデータをインターネット・専用回線経由で取得、データ管理を行います。


●ファーマコヴィジランス

「安全性情報管理」と訳され、WHOでは「医薬品の有害作用又は関連する諸問題の検出、評価、理解及び防止に関する科学及び活動」と定義されるファーマコヴィジランス(以下PV)。新薬の臨床試験から市販後まで、その安全性(副作用)に関する情報を薬事法等の規制に基づいて収集し、医薬品の安全性向上に貢献します。

活躍している専攻医学・薬学、生物、化学、農学、物理など理系全般

数理能力やITスキルも評価される

日本CRO協会 理事長 植松 尚

CRO業界には幅広い業務があり、理系学生においても薬学系の学生だけでなく幅広い領域からの人材を求めています。「モニタリング」という臨床試験が正しく行われているか、患者さんの人権などが保護されているかどうか保証する業務ばかりでなく、例えば「データマネジメント」という、得られた試験データのデータベース化とデータの信頼性を確認する業務、治験の結果を解析し、治験薬の有効性や安全性を統計学的に検証する「統計解析」、またそのシステムを構築する「システム開発業務」などです。

CRO自体が新しい業態なので、業界全体としてスペシャリストをもっと育てていかなければならないと考えており、教育環境を整えるなどして人材育成に力を入れています。医薬分野の知識はあるに越したことはないのですが、知識は浅くとも学ぶ意欲がある方であれば大歓迎です。実務を通じて、医薬品だけでなく医療全般の知識を深めることができるでしょう。

医薬品を生み出すというのは、万単位の人を病気から救うことができる社会的意義の極めて大きい仕事。そのような点にやりがいを感じ、努力を続けられる人にCROという業界を知ってほしいですね。新しいビジネスチャンスが多い業界なのでチャレンジ精神あふれる人からの挑戦をお待ちしています。

■協力:日本CRO協会 理事長 植松 尚