年金制度に対する不安が高まる昨今、その重要度が高まり続けている「資産運用」。その資産運用のフィールドでは、理系出身者が様々な専門職として活躍しています。資産運用ビジネスの仕組みから、理系の活躍フィールドまで、日本最大級の資産運用会社、野村アセットマネジメント人事部の大竹 一郎氏から話を聞いた。
大竹 一郎 (おおたけ・いちろう)
野村アセットマネジメント株式会社 人事部 シニア・マネージャー
資産運用会社のビジネスを端的に表すと、「お客様からお預かりした資産を株式や債券などに投資して運用する」業務です。事業の柱は大きく2つ、「投資信託」と「投資顧問」です。「投資信託」は証券会社、銀行、郵便局などで販売され、主に個人投資家向けに展開しています。一方、「投資顧問」は機関投資家が対象となります。国内外の年金、政府・中央銀行、事業会社等と個別に契約を締結し、オーダーメイドの運用サービスを提供します。
銀行や証券会社のプロップトレーダーと混同されることが多いのですが、同じように株式や債券を売買する業務でも、その性質は異なります。大きな違いは運用している資金が「誰のものか」ということ。プロップトレーダーなどが運用するのは所属する金融機関の「自己資金」であり、自社の収益最大化が目的です。それに対して私たち資産運用会社は、「お客様の資金」をお客様の“代理人”として運用し、最高の運用成果を提供することを目的としています。
自己資金ではなく代理人としての投資となりますので、お客様との事前の取り決めなどの制限は厳しくなります。また、お客様への報告の義務も生じますので、きちんと説明できる投資行動をとることも必要となります。運用での利益はもちろん、損失もすべてお客様に還元されてしまいますから、100%お客様のために動かなければならない仕事です。これによって利益相反がなく、お客様とWIN-WINの関係を築いていく喜びを感じることができます。
今はまだ資産運用にあまりなじみのない日本ですが、昨今の「少子高齢化」の進展や低金利の長期化など、社会のありようは大きく変化してきています。普通に働いていけば老後資産が自然と形成される時代から、自ら意識的に資産を形成していかなくてはならない時代になってきているとも言えるでしょう。この流れの中で夫婦共働き比率の上昇などの動きも起こっていますが、同様に資産運用も以前のように一部の富裕層が行うものから、幅広く一般の人が行うものに変わる「マス化」が進展していくと考えています。私たちは、「資産運用を日本に浸透させ、経済に貢献する」という大きな使命を担っているのです。
資産運用ビジネスは、様々な専門性を持つスペシャリストが存在しています。例えば、投資戦略を策定し判断を下す「ポートフォリオマネージャー」を中心とした運用部隊、それを実現すべく株式や債券の売買を行う「トレーダー」、お客様や販売会社に運用の提案を行う「営業」や、新たなファンドを作る際のまとめ役となる「商品企画」、情報技術で資産運用の業務を支える「ITエンジニア」など、多くのスペシャリストがいます。
お客様からお金を預かり、運用し、結果を計算し、報告する一巡の業務を円滑につないでいくことで初めてお客様に付加価値が提供できます。この中で大事なことは自分と専門性の異なるスペシャリストのつけている付加価値や、そこで大事にされている価値観を理解しようとする姿勢です。スペシャリストとして専門分野を深く掘り下げることは当然求められますが、併せて幅広い視界が必要というのは研究の分野でも同様かもしれません。
理系・文系問わず活躍している業界ですが、数字を扱う仕事ですから数理的な能力や、お客様に運用方針や成果についてロジック立てて説明できる論理的思考が活かせます。また、金融マーケットでは大規模なデータを扱うケースが多いため、プログラミングスキルを発揮することもできます。
とはいえ、理系の素養があれば生き残れるという仕事ではありませんし、それにしがみついて他の事にチャレンジしないのだったら数年で埋もれてしまうでしょう。あなたの理系としての強みは、弱みを隠し自分を守るための「盾」でしょうか?それとも、自分の世界を広げていくための「武器」でしょうか?これは理系の素養に限ったものではありません。仕事は20年、30年と続けていくものですので、大切なのは今何を持っているかではなく、将来どうなるかであり、それに向けて着実に成長を積み上げていけるのかどうかだと思います。では何があれば成長を積み上げられるのかというと、志や価値観がこの仕事にマッチするかどうかです。冒頭でお話したように、お客様とWIN-WINの関係を築くことにやりがいを感じられるか。使命感を抱いて仕事をしたいと思えるか。本当にこの仕事をして幸せだと思えるか。このようなマッチングをしっかり実感した上で、それぞれの「武器」を活用して自分の世界を広げていただきたいと思います。
業務が多岐にわたる資産運用会社には多様な職種があり、それぞれが専門性を発揮して活躍することができます。多くの力を結集してお客様に成果を提供していくからこそ、専門特化しながらも自らの仕事が全体のどの部分なのか、他にどのようなプロがいて事業が成り立っていくのか、興味を持って自分の世界を広げていくことが大切です。
●運用
ポートフォリオマネージャー お客さまから託された資金を、運用方針に基づき株式や債券などへ投資します。アナリストやエコノミストとのディスカッション、運用戦略の立案、トレーダーへの売買指示、ポートフォリオの構築・リスク管理など、資産運用業務の中心的な役割を果たします。ファンドマネジャーと呼ばれることもあります。
活躍している専攻理工学系全般
●調査・ トレーディング
アナリスト/クレジットアナリスト ポートフォリオマネージャーが投資判断をする上で必要な業界動向や銘柄動向など、企業のファンダメンタルズに関する調査・分析を行います。財務諸表分析はもちろん IR ミーティングや決算説明会への出席、会社訪問による経営陣へのインタビューなどの情報収集を通じて分析・収益予想を行い、運用の付加価値の源泉となる情報を創造します。 エコノミスト 日本・アメリカ・ヨーロッパ・アジアの主要国を中心に、景気・金利・為替動向や株式・債券等に関する情報収集・分析・予測を行い、投資戦略策定に関するファンダメンタルズ情報を提供します。 トレーダー ポートフォリオマネージャーの指示に基づき、株式・債券・為替などの売買執行を行います。売買執行に伴う市場へのインパクトや売買コストを勘案し、最良な執行を目指します。
活躍している専攻理工学系全般
●研究開発
クオンツアナリスト 数理モデルに基づくクオンツ運用や商品開発を行います。クオンツアナリストには理工系大学・ 大学院出身者が多く、定量分析技術とファイナンス理論を駆使し、新しい運用手法・モデルの開発を行います。 フィナンシャルエンジニア 情報技術を用いた資産運用業務の支援を行います。定量分析技術を用いたパフォーマンスの要因分析や分析エンジンの開発、ポートフォリオのリスク情報の提供、運用支援システムの開発・ 改良など支援範囲は多岐にわたります。
活躍している専攻理工学系全般
●営業・管理部門
マネージャー/アカウントマネージャー 投資家や販売会社へ新商品や運用の提案、運用報告、セミナーや勉強会を行います。国内の個人投資家から海外機関投資家のお客様まで、あらゆるお客様に満足いただけるサービスを提供します。
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