投資銀行とは企業における資金調達やM&Aといった重要な局面を支援したり、機関投資家向けに金融商品の売買・仲介を行ったりする金融機関をいう。世界最大級の金融グループ『UBS』において、日本における投資銀行業務を担っているUBS証券株式会社の人事部採用担当者から、投資銀行のミッションや仕事の醍醐味を聞いた。
UBS証券株式会社
人事部 新卒採用 スペシャリスト アソシエイト・ディレクター
投資銀行の顧客となるのは、事業会社など資金を必要としている企業や、資金を効果的に運用したい機関投資家。
こうした法人と金融マーケットの橋渡しを行うことが、投資銀行の役割です。
投資銀行のビジネスには大きく分けて2つの側面があります。ひとつは、企業の経営層に対して株式・債券発行による資金調達やM&Aなどのアドバイスを行う「投資銀行部門」。もうひとつは機関投資家に対する株式・債券の売買の仲介や自社での売買など、金融マーケットに対峙した業務を行う「マーケッツ部門」です。
投資銀行部門のバンカーは、例えば新聞の一面を飾るようなインパクトのあるM&AやIPO(株式公開)など、まさに企業の命運をかけた決断に立ち会います。経営層と対峙するためスマートな印象を抱かれがちですが、実際はプレッシャーが大きく泥臭い仕事と言えるかもしれません。なぜなら彼らが立ち会うのは、企業の未来を左右する一世一代の場。だからこそ最適な提案を行うために持てる知見を最大限活かし、プライドをかけて「あと一歩」の詰めを大切にするのです。自分のすべてをかけて挑んだ案件が身を結んだ時には、大きなやりがいを感じられます。
一方、マーケッツ部門では刻一刻と変動する金融マーケットの中で、多様な金融商品を扱います。そこでは各分野のプロフェッショナルが活躍。高い分析力や集中力、そして瞬発的な判断力が求められ、投資銀行部門の業務とはまた違った緊張感があります。早いうちから組織の原動力となって活躍することができる業界は、少ないのではないでしょうか。個々の裁量に委ねられることで、圧倒的な成長機会を得ることができますし、仕事の結果が明確に数字で分かるという醍醐味があります。
一口に「投資銀行」といっても、ロケーションやサービスによる個性があります。米系、欧州系など各エリアでのプレゼンスは異なりますし、総合金融機関として幅広くサービスを展開している企業もあれば、証券業務に特化している企業もあります。それぞれに企業カルチャーも異なりますから、その点も就職活動の時には比較してみるといいでしょう。
業界全体の動きとしては、リーマンショック以降の金融規制強化により、大きな過渡期を迎えているといえます。ルールの変化をチャンスと捉え、既存ビジネスを見直しさらに成長していけるのか、変化に対応できず衰退していくのか。柔軟性と対応力に富む企業が生き残っていく、目の離せない業界だと言えます。
投資銀行は多様な人材が多様な視点と個性を発揮して成長している組織です。中でも理系人材は特定の部門だけではなく、多くの部門で高いパフォーマンスをあげています。理系の強みとしてよくあげられる「論理的思考」「数字に対する強さ」はもちろん、ひとつの学問を突き詰めてきた集中力、研究テーマに向けて思考錯誤を繰り返してきた情熱、目標到達意欲、粘り強さは、理系人材の大きな強みです。
金融の切り口で企業の支援を行う【投資銀行部門】では、上記素養の多くを活かすことができます。特に大型案件となれば何年もかけて提案や交渉が行われることもありますから、目的を果たすための情熱は欠かせません。マーケッツ部門では、株式や債券などの売買を行う【トレーダー】は数学的能力や複雑な状況を直観的に理解する能力が問われます。また、機関投資家に対し金融商品の提案を行う【セールス】は論理的思考力や分析力が必要です。そして業界動向を予測し、機関投資家向けに企業分析と投資アイデアを提供する【リサーチ・アナリスト】は、複雑なデータや情報を分析し専門的な見解をまとめる力が活かされます。彼らは業務を通じてそれぞれが高レベルのデータアプローチの手法を築いていますが、そうした点では特に理系ならではの視点を活かせるのではないでしょうか。
「そうはいっても、金融や経済の知識を身に付けていないと採用されないのでは…」と心配に思われるかもしれません。しかし、金融知識は入社後にいくらでも磨くことができます。むしろ私たちが理系学生の皆さんに期待しているのは、目の前の学問に没頭し、とことん“やりきる”力です。投資銀行では常に目の前の仕事を全力でやり遂げていかなければなりませんから、学生時代に何かに打ち込んだ経験は必ず応用できます。研究テーマが金融からかけ離れていようとも問題ありません。「私はこんなことを一生懸命やってきて、誰にも負けない自信があるんです」と目を輝かせてアピールしていただけると、私たちもワクワクしますし、実際にそういう方が入社して活躍しています。
「就活対策」目的で小手先の金融知識を身に付けるくらいなら、その時間は学問に目一杯使ってください。誰にも負けない専門性を磨けるのは、理系学生の特権ですから。
金融のプロフェッショナルが集まっている投資銀行業界は、しばしば「入社前から経済や金融の専門性が必要」と思われがちですが、実際は専攻に縛られず多様な職種で理系人材が活躍しています。「論理的思考」「数理能力」「分析能力」はもちろん、ひとつの専門分野に打ち込んできたことで得られる集中力や粘り強さなど、理系人材には大きな期待が寄せられています。
●投資銀行部門
投資銀行部門は企業や金融機関および政府機関に対し、経営および財務戦略に係わる様々なアドバイスを提供する役割を担っています。具体的には、M&Aや企業の組織再編、株式・債券発行による資金資本調達、公的企業の民営化など、企業や組織のトップマネジメントと深い信頼関係を築き、経営戦略を支援します。一般的に業界別のセクター・チームと、サービスに特化したプロダクト・チームに分かれていますが、両チームで協業し、また海外の同僚とも連携しながら、お客様のニーズに沿った高度なサービスを提供します。
●セールス
セールスは機関投資家などに対して、リサーチ部門によるレポートやマーケット情報を収集し、お客様のニーズに沿った金融商品や投資アドバイスを提供しています。取り扱う商品により株式部門と債券部門に分かれており、株式部門では国内外の株式や各種デリバティブなど多様な商品を、債券部門では社債をはじめとした国内外のクレジット商品と、国債や金利仕組債などの金利・為替商品を扱います。セールス担当者には、個々の顧客や市場動向に即座に対応し提案を行う、柔軟性と独創性が求められます。また、お客様のニーズに応えるために、社内のトレーダーやリサーチ・アナリストと良好な関係を構築することも重要です。
●トレーディング
セールスと同じく、トレーディングも株式部門と債券部門に分かれています。株式トレーダーは株式市場の動きやマイクロストラクチャーを熟知し、世界各国の市場で株式を売買します。特にセールストレーディングではお客様との交渉や複雑なアルゴリズムを活用し、機関投資家への流動性供給という重要な役割を持ちます。債券トレーダーは業界トレンドや金利動向を踏まえ、与えられたリスクの限度内で新たな収益機会の創出を任されています。また投資銀行部門などに対しては、新規発行のプライシングやタイミング等について、専門的な見地から助言を行うこともあります。絶え間なく変わる市場において集中力を維持し、高度な分析能力や瞬間的な判断力を発揮していくことが求められます。
●リサーチ
リサーチ部門では、各担当業界や個別企業を分析の上、今後の市場動向や将来の見通しを記した専門性の高いレポートを作成し、機関投資家等のお客様や社内の関係部門に提供しています。リサーチ・アナリストの提供する専門的な見解はお客様の投資判断をサポートし、ビジネス上の重要な指標となります。また、トレーダーの投資戦略立案や取引に関する意志決定の支えとなっています。担当業界に対する卓越した知見や独自の見解、複雑なデータや情報の分析能力に磨きをかけることで、特定業界のトップ・アナリストとして活躍することが可能です。
●ストラクチャリング
機関投資家や事業販売会社といったお客様のニーズに対応した金融商品の組成やソリューションの提供を行うのが、ストラクチャラーの業務です。金融商品には常時マーケットで流通している株式や債券を主な原資産とする“フロー”と、金利・為替・クレジットを含めた複数の資産にわたるオーダーメイドのソリューションにあたる“ノンフロー”と呼ばれる商品があります。 トレーダーと議論を重ねて収益性の高い商品を設計するだけではなく、セールス担当者と共にマーケティングを行います。ニーズを的確に捉え商品を組成する力、そして多様な部門と協業するバランス感覚が養われます。
●管理部(オペレーションズ)
管理部は、株式、債券、デリバティブなど、投資銀行におけるあらゆる商品・サービスの取引や決済などをスムーズに遂行する役割を果たしています。業務効率化の追求やコスト管理はもちろん、市場の変化や規制に適切に対応した柔軟な業務プロセスの構築など、多様な課題に取り組んでいきます。海外拠点や社内の様々な部門と連携し、戦略をサポートするこの部門は、いわば投資銀行のビジネスの中核に位置する存在といえます。
●テクノロジー
金融ビジネスにおいて、ITは必要不可欠な存在です。テクノロジー部門は最先端の技術によって、トレーディングや調査・分析など、各部門における細かなニーズに対応したITソリューションを提供しています。その役割は、単に革新的なシステムを構築するだけではありません。「テクノロジーをいかにビジネス分野に応用していくのか」「ビジネス上の課題を解決するには何が必要か」という、ビジネスの担い手としてソリューションを提供していく姿勢が求められます。
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