近年、国境を越えてグローバルに活躍する理系出身者が増えている。世界最大級のODA実施機関である国際協力機構(以下JICA)に所属する浅見達也氏は、入構後間もなくスリランカの上水道整備事業プロジェクトに参画し、JICAが円借款を行うための調査、審査、借款契約準備といった重要ミッションを遂行。231億円の円借款を成立させ、約10万の人々に安全な上水道を提供するプロジェクトの端緒を拓いている。同プロジェクトの背景や内容について浅見氏に話を聞いた。


途上国の持続的な発展に貢献したい

大学院で環境工学を専攻し、微生物学的なアプローチで上水の安全性に係るリスク管理に関する研究をしていた私は、就職活動では途上国開発に携わりたいと考えJICAへの入構を決めました。近年、途上国に流入する資金の多くは民間のものですが、一方で世界にはまだまだビジネスで進出するにはリスクの高い国や地域が多いという現実もあります。そのような国や地域にもアプローチできるJICAに魅力を感じたのです。

私の場合、大学院での研究内容とスリランカでのプロジェクトの親和性が高かったこともあり、学んだ知識を直接仕事に活かすことができました。また、プロジェクトの審査段階では、かなりの数の協議用文書を作成しましたが、そのために様々な資料を読み、数字を用いて説得力の高い文書を作ることが求められます。このような場面では、数字をベースに議論をして、ロジックを組み立て、言語化するという理系で鍛えられてきた能力を存分に活かせたと感じています。

実際、JICAでは農業、土木、都市計画、防災、環境などを学んできた方を中心に、多くの理系出身者が活躍していますし、事業の幅広さを考えるとあらゆる専門性を持った方に活躍の場があります。


スリランカの上水道整備プロジェクトの背景

都市部に比べてアヌラダプラ県では上水道の整備が遅れており、多くの人たちが井戸水を利用しています。しかし、地下水の水質が悪く、フッ素を多く含んでいるため、高濃度フッ素を原因とする歯牙フッ素症が蔓延しており、スリランカ政府も重要な問題であると認識していました。そこでJICAが検討・調査を行い、円借款案件(有償資金協力)としてプロジェクトがスタートしました。

アヌラダプラ県北部上水道整備事業は、フェーズ1とフェーズ2に分かれており、フェーズ1に関しては2013年に円借款契約の調印が行われ、先行してプロジェクトが進行しています。対象地域は神奈川県以上の面積があるため、段階的に進めて行くことが決まっていました。次はプロジェクトの具体的な流れをプロセスごとに紹介します。


プロジェクトサイクル図


▼プロジェクト準備(事前調査)・要請終了後に参画

一般的な円借款案件のプロジェクトサイクルは、プロジェクト準備(事前調査等)完了後、先方国当局からの要請を受け、検討/審査・事業事前評価を行います。その後、交換公文(国際法上の権利義務関係についての約束を形成する文書)と借款契約を交わして実施段階に入るのですが、私がスリランカのプロジェクトに参画した2015年10月の段階では、事前にスタートしていたフェーズ1が進行していたこともあって、事前調査を含む基本的な準備が終わり、相手国からの要請も完了した状態でした。そのため私はフェーズ2のための補足調査、審査と借款契約を担当しました。

審査までの段階で本プロジェクトに参加していたJICAのメンバーは、私のほかに円借款案件の総括が1名、現地事務所の担当が1名、技術部門の担当が1名、合計4名です。

▼円借款案件における審査及び審査を行うための調査

円借款案件において私たちJICAが行う審査ですが、民間の銀行と同じように相手国の財政状況など信用・リスクを確認するほか、開発効果に関する様々な項目も対象となります。今回のプロジェクトでは、開発によって水道水を使えるようになる住民数や地域の把握、水道料金に関するスリランカ政府の政策・方針、事業の実施機関である水道公社の技術水準、被益住民の中で不平等が生まれる可能性、上水道施設建設により自然環境に与えるダメージなどに関しても情報を集め、確認を行います。

JICAでは、こうした様々な項目に関する調査・審査内容をもとに、工事スケジュールなども含めて先方政府と協議を行うこと自体を「審査」と呼んでいます。私自身も現地に出張し、スリランカの政府当局担当者との協議を2回行いました。最終的に合意文書にサインをいただけた時は「これで多くの人たちに安全な水を届けられる」という大きな達成感がありましたね。

▼借款契約の協議、そして契約調印へ

先方政府との合意も含めた審査が2016年4月に完了した後、日本政府がスリランカ政府に対してプロジェクト実施のコミットメントを表明。その後、私はJICAとスリランカ政府の間で結ばれる借款契約の内容に関して、現地へ赴きスリランカ政府当局担当者との協議を重ねました。

借款契約の協議自体は2016年の7月に完了し、2016年11月17日に調印が成されました。

▼プロジェクトの実施主体はスリランカ政府、JICAは監理を担当

調印後はプロジェクトの実施に入りますが、プロジェクトの実施主体はスリランカ政府当局となり、JICAは監理者としてプロジェクトの進行状況などをチェックする立場となります。スリランカ政府当局自身が公共調達を実施して、開発コンサルタントを選定し、設計がスタートします。設計が完了し、施工の段階に入ると新たにスリランカ政府当局が施工業者を公共調達するというフローになります。

プロジェクト完成予定は2021年であり、完成後はJICA、スリランカ政府当局、開発コンサルタントによる事後評価を行う予定です。プロジェクトの完了はまだ先ですが、この事業がスリランカのさらなる発展に貢献できると嬉しいですね。

プロジェクト風景画像

【1】アヌラダプラ県北部上水道整備事業で建設予定の浄水場では、灌漑用貯水池を水源とする予定。【2】事業対象地の様子。現状、住民は炊事用水や飲用水として、安全でない井戸水の利用を避け、水道公社が給水車で配る水を待っている。【3】世界銀行・アジア開発銀行と合同で住民にヒアリングを行い、過去の案件を評価することにより、スリランカの水分野が抱える課題を抽出。



PROFILE

浅見達也

浅見達也(あさみ・たつや)
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
企画部 総合企画課
工学系研究科 都市工学専攻 修了

大学院では水環境の研究室に所属。2015年入構後、南アジア部にて円借款案件であるスリランカの上水道整備事業プロジェクトに参画し、案件の審査および審査のための調査業務全般、借款契約を担当。2017年5月より企画部に在籍。

≪JICAは理系ナビ2019に情報掲載中です!≫