福島12市町村で始める次世代技術を生む挑戦


東日本大震災から約11年。今、国家プロジェクト『福島イノベーション・コースト構想』が進められている福島12市町村が、日本屈指の研究開発型ベンチャーの集積拠点になりつつあることをご存知でしょうか。ドローンやロボット、モビリティなど、都市部では難しい製品の開発・生産拠点として、新しい仕事が生まれる場になっています。開拓者として挑戦する理系人材も増えており、本稿ではその取り組み事例を紹介します。

※対象となる福島12市町村:南相馬市、田村市、川俣町、浪江町、富岡町、楢葉町、広野町、飯舘村、葛尾村、川内村、双葉町、大熊町


【1】非常時でも活躍する汎用人型重機を社会実装する

PROFILE

金岡 博士

金岡博士
株式会社人機一体 代表取締役社長
博士(ロボット制御工学)

「日本のロボット技術のレベルは非常に高い」そう言われていたにも関わらず、東日本大震災での原発事故対応でロボットの活躍は限定的だった。その現実が起業のきっかけになったと語る金岡博士。「いつかまた訪れる非常時に、優れた技術が復興現場で活躍するためには、ショベルカー等の重機のように平常時から使われる製品として普及するものを作らなければいけない」そんな思いで、自身が大学で研究してきた技術を製品として世に出すことを目指し会社を立ち上げた。


確固たる技術で、苦役から解放される世界の実現へ

通常の産業ロボットは、静止しているモノを正確に掴んだり、動かしたりすることは得意だが、未知の外力で押されたときに柔軟に力を制御するといったことはできない。しかし、人機一体のロボットは動く腕を押しても柔軟に跳ね返ってくる。これは人間が無意識にやっているように力加減をコントロールしているからだ。これは、「力制御技術」というコア技術が可能にしている。そしてもうひとつのコア技術の「パワー増幅バイラテラル制御技術」により、例えば、熟練職人のような繊細な動きを大きなパワーに増幅して、人がロボットを操ることができる。これにより、これまで機械での代替が難しかったような肉体的重作業から人類を解放し、ロボットオペレーターへと仕事を変化させることが株式会社人機一体のビジョンだ。


熱意をもった人たちと福島発の製造拠点をつくる

同社は2019年に新たな拠点として福島県南相馬市に「福島基地」を設立した。福島県にはストーリーがあり、福島発のロボットを世界に発信することで復興に寄与できると考えているのだ。

蓄積した知識やアイデアを具現化してロボットというカタチにしていくことは、多くの人を動かす「実装力」が必要で難しい。そのためには人々の熱意や想いが必要不可欠であるが、南相馬市にはそれがあった。ロボットで復興するんだという意志に溢れており、その熱意を受ける形で、金岡博士はここに自社の拠点をつくることを決めた。

「福島は震災から復興し元通りになるのではなく、さらに世界に羽ばたく産業をつくることを目指す場所であり、震災をきっかけに生まれたベンチャーの人機一体にとってもストーリーのある場所なんです」と金岡博士は語る。


多彩な知識集団となれる仲間を

重労働の現場は多様である。人機一体は製品を自社で製造販売するのではなく、製品開発に必要な知識を体系的に構築し、複数の大企業と連携して汎用性のあるロボット産業そのものを作るという戦略で社会実装を目指す。日常で使えるロボットを社会に浸透させるには法整備も必要であり、ビジネススキームを作っていく必要があるため、ロボット技術以外の専門家にも活躍の場がある。福島発の技術でロボットが活躍する世界や新しい枠組みをつくることに情熱を持てる人にとってやりがいのある場となるだろう。

  • 人機一体_ロボットアーム

    しなやかなロボットアームの力制御実験の様子。

  • 人機一体画像_人型重機のハンドリング

    人型重機が長尺物をハンドリングする様子。

【2】「宇宙旅行で誰もが地球を眺められる」ものづくり

PROFILE

中園 利宏

中園 利宏
株式会社岩谷技研
執行役員CFO 経営企画部 部長

宇宙旅行は巨額の費用に加え訓練が必要なため、特別な人だけが宇宙空間に行けるのが現状だ。それに対し、福島県南相馬市に研究開発所のある株式会社岩谷技研は桁違いにコストを抑えられるガス気球と気密キャビンの開発により「誰もが特別な訓練を必要とすることなく、子供から年配者まで全ての人を宇宙の入り口まで連れていくこと」をビジョンにしている。


「気球に乗って宇宙へ」の夢に合流

「気球で宇宙旅行」という世界初の夢を目指す岩谷技研の紹介を知人から受け、中園氏は岩谷代表に会った。代表がテレビ番組「情熱大陸」や高校生の英語の教科書に登場している有名人だと中園氏は知らなかったものの、「一緒に気球に乗って宇宙にいきましょう」との誘いに「はい」と即答したほど、目指す夢が魅力的に感じられた。ロケットと違って格段に部品数が少ない気球を成層圏まで飛ばせば誰でも宇宙へ行けるという「理にかなった発想に心打たれ、この事業を収益化したいと思いました」。銀行員の経歴を持つ中園氏は、上場による資金調達やM&Aで事業を買って大きくする経験を活かそうと同社に参画。現在、資金調達の累計が約11億円になり、大型気球開発は順調に進められている。


福島での人のつながりの強さ

夢へ挑戦する主体は、はじめは「会社」ではなかった。初期は、代表が故郷の郡山に戻り、カメラを搭載した小型の気球を打ち上げて宇宙撮影をしていた。ある企業からの宇宙撮影受注に際し、要請により設立したのが株式会社岩谷技研のはじまりだ。福島には縁があり、気球開発の技術に期待されて、福島イノベーション・コースト構想による「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」に2021年度から2年連続で採択された。

福島の南相馬市を宇宙旅行の出発地点にしたいと、中園氏も足繁く通って感じたことは、人々のつながりの強さだ。実験では降りてくる気球を回収するために地元漁協の協力が欠かせない。未知な依頼内容にも関わらず、着水を船で追って回収、次回の船のシフトを組んでくれるなど親身に対応してもらえた。「おかげで、実証が見積もりより半年は早く進んでいますね」


誰もやっていない、ものづくりの挑戦

世界初に挑むものづくりは、何から何まで手作りとなる。出来合いの部品では事足りず、部品製作に必要な工具すら自分たちで製作することがよくあるからだ。気球を飛ばす上空25㎞付近の成層圏は宇宙環境と同じなので、マイナス70度の環境での実験や、超低温でのポリエチレン融着が必要になる。「いろんなことが手作りですよ。実際に手を動かすことに面白さを感じる人に南相馬市の電子機材の開発拠点に集まってほしいですね」。2023年度には、有人打ち上げを予定。協力的な周囲のあたたかいつながりが、「外から地球を眺めるという、人々の意識や視野が広がる旅(Journey)」を目指した技術開発の花を開かせるだろう。

  • 岩谷技研_実験写真

    プラスチック製の気球にヘリウムガスを充填し、
    屋外での実証試験を行う様子。

  • 岩谷技研_集合写真

    総勢50名以上の岩谷技研チーム。
    インターンやアルバイトとして参加している学生も。

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