CRO(医薬品開発業務受託機関)業界

新興国における需要拡大や高齢化の進行など、今後の世界的な成長が期待されている医薬品業界。 その医薬品市場において、新薬の研究開発を支援しているのがCRO(医薬品開発業務受託機関)業界だ。製薬企業のパートナーとして、いまや新薬の創出に欠かせない存在となったCROとは? 日本CRO協会理事長 植松尚氏に話を聞いた。


新薬が世に出る確率は三万分の一

新薬の研究開発プロセスとCROの担当領域

私たちが現在使用している医薬品は、医療・医薬品業界の努力と患者さんたちの献身による臨床試験に支えられて存在しています。新しい薬の開発に際するリスクとコストは非常に大きく、ひとつの薬が世に出るまでに10年以上、数百億円の投資が必要となる場合もあります。さらに、基礎研究(医薬品の基となる成分の研究)から見ると世に出ている医薬品はほんの一握りで、製品化の可能性は三万分の一といわれています。

とはいえ、世の中にはまだまだ治療法の確立されていない疾病は数多くあり、製薬企業は新たな医薬品を生み出していくことが求められています。そんな製薬企業の研究開発の支援を目的として設立されたのがCROなのです。

新薬の開発のスタートは基礎研究から始まり、動物での安全性の試験などを行う非臨床試験を経て、ヒトに対する臨床試験(3~7年)を行います。その後、厚生労働省の承認審査で認可が下りれば製造・販売が可能となります。販売後も、医薬品の有効性や安全性の正確なデータを蓄積していくために、長い場合は10年以上調査を継続します。

一連のプロセスのなかでも、臨床試験は膨大な時間と人手が必要となります。そのため、製薬企業が単独で臨床試験の体制を維持し続けようとすることは、効率的とはいえません。そこでCROが臨床試験を複数の製薬企業から受託することで、より効率的な新薬の研究開発をサポートしているのです。いまやCROは国内において、外資系企業も含めた製薬企業にとって欠かせない存在となっており、市場規模や従業員数も堅実に成長を続けています。

ノウハウを蓄積し、展開領域が広がるCRO

日本CRO協会売上高、従業員数推移グラフ

近年では、CROに臨床試験のノウハウが数多く蓄積されてきており、より精度の高い臨床試験ができるようになるなど付加価値の高い仕事ができるようになっています。さらに、バイオ系ベンチャー企業から新薬の候補物質を取得して研究開発を進めたり、製薬企業に新薬開発戦略のコンサルティングを行なったりと、これまでに蓄積したノウハウを活かして活躍のフィールドを広げていますし、また、今後の臨床試験のイノベーションにかかわれる業界です。

日本は医薬品の市場規模が世界2位とはいえ、その成長は近年頭打ちの状態です。それゆえ、製薬企業の中には海外戦略を積極化し、グローバル市場での成長を目指している企業も珍しくありません。CROはそういった製薬企業のパートナーとして力を合わせ、日本から世界に、革新的な医薬品を生み出していきたいと考えています。